壮麗伐採7
そして隊商が再出発してからしばらく経ったその時。
白い服の集団が現れたのだ。
「何事ですか!」
急に止まった客車に鋭く隊商長が声をあげると、「聖十字教徒の者のようです!」と御者側から返事がある。
「一体何の用事です。隊商をわざわざ止めるほどの用事なんでしょうね」
隊商長が苛立たし気に聖十字教の者達に声をかけた。だが「羽人だ」「亜人が責任者だと? ふざけるな」「悍ましい」と口々に零し始める。
上位の幹部らしき人物が現れ隊商長の姿を観止め、一瞬、表情を歪めた。だが隊商長だと気付いたのか「『樹木の破壊者』を寄越しなさい」と短く告げる。
「なぜ『樹木の破壊者』が乗っていると?」
「そう情報を聞きましたので」
「情報源の信憑性は」
警戒心を露わにした隊商長が問いかけるも、幹部らしき人物はそれを無視した。
「『樹木の破壊者』は我が国の敵対者だ。我が国に入れる訳にはいかない」
そうして、「客車の中を検めさせてもらいましょう」と客車の中に上がり込む。
今回の客車には魔女と若者達しか乗っていなかった。それ故に「貴方達が『樹木の破壊者』ですね」と聖十字教の信徒達に言われてしまう。「客車から出てきなさい。そして並びなさい」
若者達は客車に上がり込んできた信徒達によって客車の外に連れ出される。
信徒が魔女に触れそうになった途端、その信徒が弾かれた。「なんだ!」驚く周囲が魔女を見ると、魔女の傍らで獣が鋭い視線で信徒を睨んでいる。
「妖術を使う獣が居る! 悍ましい!」
「ねこちゃんを悪く言わないで!」
あからさまに嫌悪の表情をした信徒に魔女はキレた。
「『我は告げる“不躾な侵入者”を除去する風の守りを』!」
魔女はかろうじて魔術を使い、信徒を強制的に客車の外に弾き飛ばす。『やや怪しい文言だったな』と呪猫当主の声がした。途端に巨猫が低く唸る。
「ねこちゃん、怪我してるんだから大人しくして」
と巨猫を撫でながら「ねこちゃんを怒らせないでよ」と札の方を軽く睨んだ。
『仕方あるまいよ。此れでも魔術に一家言ある者でな』
ぽん、と軽い音を立てデフォルメチックな猫が姿を現す。
『どれ。私が祓ってやろう』
そう告げた時、巨猫が一瞬身体を強張らせた。それに気付き、魔女の意識が呪猫当主からずれる。
『暫し離れる』と呪猫当主は客車から出た。
『祓え給い清め給え神ながら守り給い幸え給え』
低く、唄うように告げられた言葉が、周囲に染み渡る。そう魔女が認識した時には全てが終わっていた。
先程までの信徒達がへたり込んでいたのだ。皆生気の無い顔で座り込んでいた。幹部だけが慌てた様子で周囲の信徒達に声を掛けている。
「……何をしたの」
『なに。唯私の不都合に引いて貰っただけだ』
問う魔女に『簡単な事だ』と呪猫当主は返す。
解放された若者達は呪猫当主に口々に御礼を告げた。それに一切も気にした様子は無く、『是で運行は再開出来るだろうか』と隊商長を見る。
「……そうですね。運行の再開はできます」
「ですが」と隊商長は生気のない顔の信徒達に視線を向けた。
「彼らを荒野のど真ん中に残したまま、というのは気が進みません」
『好きに為れば良い』
心底興味無さそうに呪猫当主が告げ、溜息混じりに「拘束して一旦客車に積みます。で、近くに彼らの足があるはずなんで、そこまで連れて行きます」と隊商長は魔女と若者に云う。
「少し狭くなりますが」
「大丈夫だよ」
申し訳なさそうな隊商長に魔女は気にしていない旨を告げた。若者達も同意見のようだ。
ただ巨猫は低く唸ったままで、呪猫当主は『疲れた。暫し休む』と札に戻っていった。
それから、すぐに信徒達が利用したと思われる移動用の客車を見つける。だが、客車を引く動物の姿がない。
「チッ……魔獣に食われましたかね。面倒です」
血溜まりに舌打ちをし、「入国まで一緒になりそうです」と魔女と若者達に伝えた。
それから信徒達が利用したと思われる移動用の客車を、魔女達の乗っている客車の後ろに接続する。「いつもより荷物は少ないんで、二台分くらいは引けるんですよ」と隊商長が教えてくれた。
「……『美の国』は、十字教が国教だったはずですが」
なぜ、聖十字教の者が直接隊商を襲いにきたのか。それを隊商長は訝しむ。
「世界で破壊すべきだとされる樹木を破壊して何が悪いんだろう」
黒髪の若者は聖十字教の信徒達の主張を不思議に思っている様子だった。




