壮麗伐採4
「噂と言えば。貴方達の事、結構話題に上がってますよ」
魔女から視線をずらし、若者達に隊商長は声をかける。
「話題って?」
他の隊員と話していたそれを中断し、興味深そうに黒髪の若者は訊き返した。魔術使いの若者と聖職者の若者は『嫌だなぁ』と言いたげに顔を僅かにしかめる。
「前も言いましたが、『樹木の破壊者』としての話が主ですかね」
周囲に広がっている噂としては『樹木を伐採する冒険者達がいるらしい』『偽王国のやつらとやり合っているらしい』『偽王国のやつらを打ち負かしている』『そいつらが来たら樹木が無くなる』そういったものだ。畏敬と疎ましさの混ざった噂達。
「樹木が重要な資源になってる国では、あんた達は疎まれるかもしれませんね。……だって、自国の樹木以外から行方不明者が出てくるんですから」
樹木を資源としか見ていない国だとその傾向はより強いだろう。
「まあ、大抵の国は『資源となる巨大樹木をそのままに、行方不明者が見つかれば良い』なんて考えていると思いますよ。自分勝手ですが」
やれやれと言いた気に隊商長は肩を竦めた。だが、その気持ちはわからなくもないことが、より事の厄介さを大きくしている。
「確か、あんた達は樹木が生えたせいで行方不明になった人を探してるんでしたよね」
荒野を渡る際の旅の中で、隊商長は若者達から旅の大まかな目的を聞いていた。それを問いかけると黒髪の若者は力強く頷く。
「そうだよ。僕の村の人や幼馴染とか」
「出身はやはり、あの村ですか」
「うん」
樹木が生え、消え去った村。それを同国の出身者で知らぬ者は居ない。
「……村の人は、数名は戻ってきているようですよ」
「ほんと!?」
隊商長の言葉に黒髪の若者は食いつく。
「えぇ。確かな筋の情報です。信じて良いですよ」
「ありがとう! 俄然、やる気が出てきた!」
「それは結構なことです。……ですが」
「?」
「もし。巨大樹木全てを伐採する前に村の人達や幼馴染が全員戻ってきたらどうするんです」
「……え?」
思いもしない問いかけだったようで、黒髪の若者は目を丸くする。
「そうなると、あんた達の最終目的は達成してしまう訳じゃないですか」
「わざわざ、危険を冒してまで全ての巨大樹木を伐採する必要はない訳です」と隊商長は黒髪の若者を見つめた。
「それでも、やっぱり全部の樹木を伐採したいと思います」
黒髪の若者は、はっきりと告げる。
「だって、離れ離れは嫌だから」
シンプルな答えだ。
「そうですか」
「樹木に捕えられているのは、基本的に誰かの家族です。今まで一緒にいたのに、『精霊の偽王国』の人達のせいで別れるなんて意味わからないです」
そう答える黒髪の若者は、強い光を宿している。
「……よかったですね。彼らは最後まで旅をするそうですよ」
魔女に小さく耳打ちをした。
「うん……よかった」
小さく、魔女は頷く。




