壮麗伐採3
隊商と合流した魔女と若者達。
「噂は聞きましたよ。美人コンテストで優勝したとか」
愉快そうに目を細める隊商長に出迎えられた。
「写真集も出ていますね」と横の隊員に視線を配ると、その隊員はさっと冊子を取り出す。冊子の中身は美人コンテストの写真ばかりだ。様々な参加者が載っており、少しだけ舞台裏の写真も載っていた。そこには若者達三名とも写っていたが、魔女は写っていなかった。
「流石ですね」
と冊子を見ながら、隊商長は専属スタイリストをした魔女を褒める。さすが、(友人達の着せ替え人形として)モデルをしていただけはあった。「(まあ私達のおかげですかね)」と内心で思いつつ
「貴女も着てみれば良かったのに」
ちら、と魔女に視線を向ける。きっと色々な生地や服があっただろうに、魔女が一度も袖を通さなかったらしいことを少し残念に思っているようだ。若者達は隊員が持っていた冊子の方に興味を向けたらしい。「一冊ください」と購入をしていた。
「わたしは良いの。昔とかいっぱい着せてもらったし、着飾ったとしてもあの人が見てくれるわけじゃないから」
「……そうですか」
それもそうか、と隊商長は思い直す。魔女は自身を着飾るためより、好きな人(友人達を含む)のために着飾るタイプだ。友人達や伴侶の居ない場で着飾る意味を見出せなかったのだろう。「それはそうとして」と魔女は話題を変えた。
「ね、『偽王国の騎士』の目撃情報とかない? 最近、全然会わないんだけど……」
少し声を落とし、周囲を気にしながらも魔女は問う。伴侶の事は、やはり気になるようだ。
「そうですね。そういえば、全く情報がありません」
魔女を『智の国』に連れ去る前までは、結構な頻度で魔女や若者達(ついでに隊商長)の前に姿を見せていた。だというのに『智の国』を出て『愛の国』に入国する前から今まで、全くの音沙汰もなかったのだ。
「どうしたんだろ」
「あの人の事ですから、また何かやろうとしてるとかじゃないですかね」
首を傾げる魔女にやや呆れ交じりに隊商長は答える。
「『何か』ってなに」
「さぁ? あの人のことはあなたがよく知ってるでしょう」
「うーん。どうだろう」
口元に手を遣り、魔女は考え込んだ。
「だってあの人、わたしに内緒にしてたこととかいっぱいあっただろうし。わたしに話してないこと、たくさんあったのは知ってる」
「そうですか」
「いまだにあの人のことは『悪戯好きのねこちゃん』ってことぐらいしか分らないから」と答えると「あー、そうですか」と呆れ交じりに返事があった。
「信頼してない、って思わないんですか」
「んー、なんと言うか。きっとわたしが知らなくて良いことなんだろうなって」
「……なるほど」
それはある意味で信頼しているようにも思える。噂やら色々があれでも、二人の中ではそれなりに良い関係が築けていたらしいと隊商長は察した。
「でも、それはそれとして。何も教えなくていい理由にはならないよね」
「そうですね」
「そりゃそうなりますよね」と隊商長は深く頷く。偽王国の騎士として活動していることとか樹木と何かしらかかわりがあることとか。隊商長だって聞きたいことがあるというのに、魔女は全く何も知らされていないのだ。ちなみに隊商長は元上司が『暁の君』の配下になったらしいことは知っている。王弟からの命令なので。
「……わたし、ねこちゃんにいっぱい『嫌い』って、『知らない』っていっちゃった」
かなり落ち込んだ声色で魔女が零した。
「はぁ、それはまあ無理はないのでは。忘れていたんでしょう?」
「それは、そうなんだけど……」
魔女は「ひどい言葉だったよね」と心を痛めている。
「今の気持ちはどうですか」
「嫌い、じゃないよ。……でも、たくさん怖い思いさせられちゃったしなぁ」
追いかけられるとか、誘拐されるとか。聞くと言葉は濁されたが他にもあったという。次に会ったら一発殴ろうかな、と過る隊商長。
「別れても良いんですよ。別居年数、心身的損害……離婚理由にはなります」
「別れるつもりはないよ。少しだけ、お説教しなきゃだけど」
魔女は彼と会って話がしたいようだ。そのためにも彼の情報を集めないといけないだろう。




