壮麗伐採2
虚数世界にある拠点で、樹木の守護達が再び集められる。『暁の君』の姿はまだ無い。
「今回は何の用事だっていうの」
いつにもなく不満そうに35番目は呟いた。守護している樹木の育成で忙しいと言うのに、その作業の中断をされてやや気が立っているのだ。
「樹木が無くなったでしょ。それについての話でしょうよ」
極めて冷静に28番目は答えた。席が近いので、嫌でも不満の声が聞こえている。
「わざわざ集める必要ある? 遠距離でもいいでしょ?」
そう、35番目は周囲に視線を巡らせ溢した。実際、遠隔での連絡が行える魔導機を利用すれば、その場にわざわざ行かなくても顔を合わせて報告や連絡ができるはずなのだ。
「だが虚数世界に行くのも、そこまで手間じゃないだろ」
そう44番目が陰鬱に答える。44番目はいつも『暁の君』の意見を全肯定するのだ。自身の意見はないのかと35番目は苛立つ。
「文句ばかり言うな。『暁の君』に逆らう気か」
二言目には44番目は大体そう言うのだ。魔道具を使って樹木の魔力を供給されているので、魔力的にはかなり強くなっている。だがそれでも『暁の君』にはかなり強力な加護の力がかかっていた。なので逆らっても勝てないことぐらい35番目には分かっている。
「別に、そんなんじゃないけど」
35番目拗ねたように言う。15番目が居なくなってから不満をぶつけられる者が居なくなり、ややこの会議はギスギスしていた。
「逆らう気が無いのなら、別にいいだろう」
そう1番目が静かに告げる。1番目も、いつも『暁の君』の意見を肯定してばかりだ。他の樹木の守護達もだけれど。
「ちぇー」
そう、35番目が口を尖らせたところで。
——バン!
と、会議の部屋の扉が乱雑に開けられた。釣られて樹木の守護達が視線を向ける。
そこには、樹木を破壊された5番目が居た。逃げ帰ってきたのだ。
「変なガキが居る。黒髪のガキの他に」
入ってくるなりに告げられた5番目の言葉に、樹木の守護者達は一笑に付す。
「『変なガキ』って、あとは薄青い髪の魔術使いと黄色い髪の聖職者、小さい医者もどきの子供しか居ないじゃない」
35番目は半ばバカにしながらも、「そう言う理由は?」と問いかけた。
「小さいガキが、樹木とよく似た魔力を帯びてやがる」
その言葉に、樹木の守護者達は笑うのを止める。
「それは……それが本当なら、大きな問題ですわね」
28番目が声を低くして呟いた。樹木の守護者達はようやく、『樹木の破壊者』達の危険性に注目し始める。
「大丈夫。問題ない」
と27番目。
「既にあの子達の中に、すでにネズミを紛れ込ませている」
『そろそろ仕事をしてもいいんじゃない?』と、とある人物に魔術式の通信でけしかける。
「ホントに準備して居たのかしらね」
と35番目は言ってみるも、樹木の破壊者達の中に居ると断言できているのならばそこにいるのだろうと悟った。
「……27番目は団体の取りまとめもしていたのでしたね」
「これだから母数の多い団体ってのは厄介よね」
28番目と35番目は呆れたように呟く。
「『暁の君』がいらっしゃったぞ」
1番目の声と共に、『暁の君』の、凄まじい魔力の気配が現れた。
そうして、樹木の守護者達の会議が始まったのだ。




