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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
一年目

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正義


「わたし、ついでに本屋とか行こうと思ってるんだけどきみはどうするの?」


 山から街の浅い裏路地へ戻ると、薬術の魔女は魔術師の男に問いかける。


(わたくし)は、此れから用事があります故、御暇(おいとま)致しましょう」


そう返せば


「わかった。ばいばーい!」


と、薬術の魔女は笑顔で手を振り、街の方へ小走りで向かった。それを、彼女が見えなくなるまで魔術師の男は見送る。


「――()れで。貴方は私奴(わたくしめ)に何用で御座いますか」


 振り返らず、魔術師の男は背に長剣を突き立てる男に問いかけた。


「……お前が『悪い奴』だから……静粛しに来たんだよっ!」


 貫こうと押し込まれた刃を、服に()()()()()()()()防護の魔術式が弾く。


「街中で刃物を振り回す等、危のう御座いますよ」


「……チッ! ずっと魔術師ローブ(その格好)だから何かあるとは思っていたが」


 声の方に顔を向けると、


「…………おやまあ、随分と……」


()()()()をした勇者様のお出ましで。


×


 振り下ろされた刃を避けながら、魔術師の男はなるべく人目に付かない路地の方へ下がる。浅い路地裏から、更に奥まった深い路地裏の方へ。

 このまま、勇者が武器を振り回している姿を一般人や軍部、貴族の人間に見られるのは避けたかった。


「俺には見える。お前が、『人間ではない』という事が!」


 その濁った目とは真反対に、朝日のように透き通った長剣を勇者は振るう。

 構えは仰々(ぎょうぎょう)しく、大振りに剣を振り回すので、良い見栄えが好きな何処かの貴族にでも入知恵をされたのかと、なんとなしに魔術師の男は考える。


「……魔術(コース)では長剣ではなく短剣や短刀等、最も実践的な道具を扱う筈ですが……()れでなくて良いのですか」

 勇者と向かい合って下がりながら、魔術師の男は問いかける。

 軸や剣に大きな振れはあまり無いものの使い慣れていないようで、勇者は時折周囲の壁に打ち付け火花を散らした。周囲に散る火花が、可燃物へ引火しないかやや不安になる。


「ただの刃物が、何故か売ってなかったんだよ!」


 石造りの壁に結晶のような刃が当たり、火花と共に甲高い音を立てた。


(しか)し。其れでも斯様(かよう)に狭い場所にて、長物を振り回されるとは……失礼(なが)ら、愚かなのでは?」


 魔術師の男は、魔術アカデミーへの視察時と同じように笑みを浮かべ、勇者へ問いかける。


「じゃあ、()()すればいいんだな?!」


 一瞬、歯軋りの音を鳴らした勇者は柄を握り、刃の形状をやや短くそして太い形状へと変化させた。

 使用者の意志で変形する刃物とは、かなり特殊なものを持っているようだ。


「……(ちな)みに何故、()の剣を私に振るうので?」


「お前のような、『人間じゃないもの』を討ち払うには、この『聖剣』が一番効くんだってなぁ!」


勇者は正直に答える。

 彼の振るうそれが『聖剣』。つまり、目の前の男が『勇者』である証拠足る剣らしい。

 続く剣技を向かい合ったままで避け、


「ははァ、成程。……貴方は『人間では無い私』が『悪』だと申すのですね」


口元に手を充て魔術師の男は(わら)った。


()()ですねぇ。……貴方には沢山の()()()()()()()が有ったでしょうに」


 剣の形状を変化させても大振りなのは変わらないまま、勢いと力任せに『聖剣』が振われる。

 長時間大振りで振り続けていても疲れた様子は見せない。剣を振っているうちに、段々と剣技や足の運びに変化が起こり始めている。

 やはり、『勇者』なだけあって、戦いにおいても何か才能を持ち合わせているようだった。


「(非常に惜しい。何故、其処(そこ)(まで)も目を曇らせたのか)」


 どこかの薬か魔術だろうか。

 魔術師の男の内心は知らず、勇者は叫ぶように問いかける。


「お前は魔獣なんだろう!? 俺の心眼が、そう言っている!」


「まあ。()()()人間を『正義』、()れ以外を『悪』とするならばそう成りましょう」

 『魔獣なのか』と問われても、その返答には酷く困った。『魔力暴走を起こした人間』は魔獣として扱われるのだから。

 確かに、古き貴族の血が流れている人間はただの人間よりも魔獣に近い。だが、それだけのことである。

 恐らくその濁った心眼は、血と邪眼に近い魔眼に反応を示したのだろう。


「(……あの家の者に出会ったならば、発狂するのでは……)」


 などと、最も北に有る墓守りの領地主のことが、ふと頭に過った。


「さっきから避けてばっかりだなテメェはよ!」


 『聖剣』を振るう勇者は、強気に押している。いつのまにか、剣を周囲にぶつけなくなっていた。


「……そうは(おっしゃ)っても、貴方は此方に手を出させる暇も寄越して下さらぬではありませんか」


魔術師の男がそう答えれば、勇者はやや余裕そうな顔になる。


「オラオラ! このままだとテメェは死ぬぜ!」


 中々に、勇者らしからぬ発言をするようだ。

 魔術師の男は少し、背後に視線を向ける。勇者は押しながら、どこかへ誘導しようとしているらしい。


「(気付くのが遅れた訳では無いのですが)」


()()()()()()()()()()()()。それが気になった。


「オラァッ!」


 何かが仕掛けられていそうだと察した奥の空間にまで追い込まれ、最後は勇者に押された。


×


「……コイツが貴方の言ってた『悪い奴』なの?」

「あっ。この人、視察でウチに来てる人じゃない!」

「そんなのどうでもいいからさー、さっさとやっつけちゃおうよー」


 最終的に着いた場所は、無人の倉庫跡地とされている場所だった。その場所に数名の、様々な格好をした女子生徒や数名の男子生徒がいる。


「……(……何です、此処は)」


 不愉快さで眉間にしわが寄りそうなのを苦しそうな顔をする事で誤魔化し、呼吸を整える振りをする。恐らく、周囲にいる者達は勇者の親衛隊だろう。


「ここは、おれ達の基地だ!」


「お前みたいな『悪い奴』が来るような場所じゃねーけどなー」


 よく見ると、街で商売をしているであろう格好の者や自身より年上であろう()()軍人、聖職者、魔術師……とにかく、人が多い。


「(……野次が煩い)」


 そう、内心で舌打ちを打つと


「アンタ、魔術師なんでしょ?」


見苦しく制服を着崩した女学生が背後まで近付き、


「魔術とか使われると厄介だから、()()()()()()()


 と、両手首を魔錠で塞がれた。


「これで封印っと」


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