勝利伐採10
話を聞く限り次に向かう予定の『愛の国』は相当にやばい国のようだ、と戦慄する若者達と魔女。
「大丈夫ですよ。前言ったように、あなた達は国で差別されるような容姿はしていないはずです。強いて言えば平均顔、でしょうかね」
気にすることはない、と隊商長は答えるも、やはり気になるものは気になるのだ。
「美人だったら特典とかたくさん貰えるそうですよ。まあ、あの国の基準は高いですからねぇ」
やや興味なさ気に隊商長は述べる。
「差別されないだけマシだって思った方が良いと思います」
きっと、その言葉に尽きた。
差別されてしまったら恐らく樹木を伐採する暇すらないだろうからだ。
「そろそろ、『愛の国』が見える頃合いですよ」
と隊商長が客車の外に視線をやる。釣られて魔女が客車の外に視線を向けると、荒野の地平線の向こうに何やら国壁らしきものが見えていた。若者達もそれに気付いた様子で、嬉しそうに話し始める。
今回の荒野を渡る旅は穏やかだった。だって『精霊の偽王国』の者に邪魔されたり魔獣に襲われたりすることもなかったのだから。
「毎度こうだったら良いんですけどね」
と隊商の人はぼやいていた。
ただ、魔女の腕輪にはひびが入ってしまったし、若者達はやや物足りなさそうな様子を見せていた。
「『愛の国』で一度腕輪を見てもらった方がいいかもしれませんね」
隊商長は悲し気な魔女にそっと告げる。
話によると『愛の国』は芸術文化の発展が著しく、金属加工もきっと行っているだろうからだ。
「ちゃんと治るかな……」
魔女は不安そうに腕輪を見つめていた。
「そういえばだけどさ」
「はい」
腕輪を見つめたままだったが、魔女は隊商長に問いかける。
「いつもわたし達と同じ隊商で移動するよね」
「えぇ。ですから、初めに言ったでしょう。あなた達を無事に最後まで届けるよう言付けられてますと」
「そうなの? 誰から?」
腕輪から視線を外し、魔女は隊商長を見つめた。
「ええと。こちらも商売なんで言えませんね。前金も受け取ってますし」
だが、隊商長は答えられないようだ。契約してるんだったら当然か、と魔女は納得する。だが。
「へぇ。あの人から?」
「さぁ。どうでしょうね」
つい、と隊商長は視線を逸らす。これだけで隊商長に依頼した人物が誰だったのかなんて容易に分かってしまう。「(そっか、あの人が……)」なんて思い、なんだか胸が熱くなった。
「ついでに聞くけど。わたし達が滞在してる間、何してるの?」
「商売ですよ」
もう一つ気になっていたことを問えば、今度はあっさりと答えが返される。
「商売?」
「えぇ。あとは他の隊商がきっちり仕事やってるか確認してます」
「そっかー」
そうこうしている間に、国はすぐ目の前まで来ていた。




