勝利伐採8
「ねぇ、『呪う猫』ー。久々の『命の息吹』はどうだったー? 可愛かったでしょ?」
とある拠点、『黒い人』はにこにこ上機嫌(だが無表情)で一仕事を終えたはずの『呪う猫』に呼びかける。確か、『呪う猫』が『命の息吹』と二人きりになるのは樹木が生えたっきりで無かったはず。だから、『黒い人』は楽しみにしていたのだ。二人がどんな会話をして愛を育んでくれるのか、とか。
ただまあ、『命の息吹』は『呪う猫』のことをすっかり忘れているらしいので大変だろうな、と他人事のように考えていた。
だが、それも愛の試練だ! がんばれ! という感じだったので『黒い人』自身は問題視していなかった。どうせ『命の息吹』は『呪う猫』のことを思い出すのだから。
「……あれ、聞いてる?」
呼びかけたのに返事がない。珍しいことだ。
『呪う猫』は『命の息吹』の家族である『おばあちゃん』と『黒い人』を正しく畏れている。つまりは礼節を欠かさないはずだった。なのに、呼びかけても返事が帰ってこない。
「おかしいなー」
と首を傾げて『呪う猫』が居る場所に視線を向けると
「ってああ! やばい!?」
血塗れで倒れた『呪う猫』が居たのだ。おまけに人気の無い『美の国』の外れである。
「ちょっとまって、途中見てなかったんだけど、何が起きたの!?」
彼は血溜まりの中に沈んでおり、ぴくりとも動かなかった。
慌てて転移し側に寄る。かなり細いが、息をしていた。そのことに安堵する。だがその呼吸はまだ辛うじて死んでいない、そんな感じだ。
血溜まりはドス黒く酸化していて、失血してから大分時間が経っていると理解した。
「大丈夫?! 『呪う猫』っ!」
手を当てると傷口はすでに塞がっているものの、魂が弱っていると確認できた。『黒い人』は急いで『命』を吹き込む。
「頑張って、『呪う猫』! きみが居なくなっちゃったら色々と取り返しつかなくなっちゃうんだからねっ!」
一体誰が『命の息吹』のことを守るのだとか、奇跡を剥がす計画とか諸々が頓挫してしまうだとか。
とにかく、今の『呪う猫』にはやるべきことがたくさんあるのだ。そのために『黒い人』は助力を尽くすし、『おばあちゃん』からもいろいろと免除してもらっている。
「高々腹を刺されただけで死ぬとか、シャレにならないの!」
なんでこの時に限って本体で活動してたんだと言いたかったが、よほど『命の息吹』に逢いたかったんだろうなと納得してしまった。
彼らが離れた時間は結婚生活よりは短いものの、かなり長い期間を経ている。判断を誤るのも仕方がない多分。
「それとも、『熱』を体に入れちゃったせいだとでもいうの?」
そういえば『熱』と契約してしまったらしい『夜の落とし子』はかなり頭がアレになってしまったのだとか聞いた記憶がある。
「我が権能ながら『熱』って厄介ねぇ」
呟きながら『呪う猫』に命を注ぎ込む。命がかなり細くなっていたから、母性としてちょっと多めに入れてしまった気がする。
「うーん、まあいっか」
※良くない
ひとまず『呪う猫』の命が安定し始めたので一安心する『黒い人』だった。




