勝利伐採5
「ところで、次行く『愛の国』ってどんなところ?」
客車に揺られながら、魔女は隊商長に問いかける。とりあえず行く国は『愛の国』には決まっているものの、向かう理由は『今居る場所に近い巨大樹木のある国』だからだ。観光や資源を目的に決めた訳ではない。
「他にも『精霊の偽王国』の噂があったら教えてもらえたら嬉しいな」
巨大樹木に向かうことが1番の目的ではあるものの、何も知らないよりは事前知識を入れておきたいのだ。
ただ、次に向かう予定の『愛の国』は名前通りに愛に溢れた国らしいことは知っている。それを隊商長に告げると「……まあ、そういう感じですよね」とやや曖昧に頷いた。
「確かにあの国は『愛の国』の呼び名の通り、愛に溢れた国ということになっています」
「……つまり?」
「国の者達は恋愛に夢中で一夫多妻とか多夫一妻とか浮気とか色々がかなり横行している国ってやつですね。何より、美しいものにしか価値はないという価値観の国です」
とんでもない答えが返される。理解に時間がかかっている魔女と若者達を見ながら「実際に行って見聞した方が早いとは思いますけどね」と続けた。
「国としては恋愛を重視するあまりに婚姻の契約も形式が変わっているようですね。浮気とか不倫がやりたい放題だとか」
「うわぁ……」
魔女の居た国では結婚の契約と双方の同意があれば側室や妾を作れるようにはなっているが、基本的には一夫一妻制を取っている。他の国でもほとんど同じようになっているはずだ。
より詳しく聞くと性風俗の話や衛生面が気になるような話、恋愛で搾取される者の話や性犯罪にかかわる話まで出てきた。特に容姿に関する優遇制度や差別などの話は聞くに堪えない。
通常、この世界では不倫や浮気は契約外なので行うと天の神から多少の天罰が下る。愛を推奨する地の神の場合、多少は見逃してくれるがそれでも程度があった。
「恋愛のために契約とか法律変えちゃうんだね」
魔女が返せた言葉はそれくらいだった。魔女自身は相性結婚という政府の制度で出会った人との結婚ではあったが、相手に不満はない。今のところ一緒に居られないことが一番の不満だろうか。
「観光客に対しては多少の礼儀というかお世辞は使うでしょうけれど、それが冒険者となるとどこまで適応されるでしょうかね」
少し思考するように隊商長は口元に手を遣り、視線を動かす。
「ま、何かあったらその時としか言いようがありませんね」
「私、『愛の国』で不自由したことないんですよ」と隊商長は呟いた。事実、隊商長は体の大半が鳥の様に変化しているが顔は美しいし、人としてもかなり美しい造形をしている。
「不安だったら顔を隠すとかやってみたらいかがです? 旅の魔術師とかうちの隊員でも顔隠しやってる奴いますし」
最後はやや投げやりだった。とりあえず大丈夫じゃないかな、とは魔女は思っている。若者達の容姿は悪くはないし、魔女も『可愛い』とは言われる容姿だからだ。(ただ、魔女は若返った姿であるのもまあ大丈夫かなと楽観的になれている要因でもある。)
そして、話の内容は偽王国の噂になった。
「『樹木の守護』の話はあんまり聞かないですが、偽王国の者を割と見かけるようですよ。今のところ害はないから放置している……というスタンスのようです」
「思いっきり害は出してんじゃねーですか」と言いながら隊商長は魔女と若者達に伝える。
「噂によると、結構、国の上層部にいるようですよ。どうやら国の王のお気に入りになっているのだとか」
「そういえば、国の法律を変えたのもそいつが原因だったとか何とか。箝口令が敷かれていたそうですが、やはり噂は漏れますよね」
国の上層部に食い込んでいる、という話で魔女と若者達は偽王国の騎士が『智の国』の役人達といろいろやっていたことを思い出した。今回も似たようなものなのだろうか。
「もしかすると、他の国ではもっとまずい箇所に食い込んでいるかもしれませんね」
「他の巨大樹木の在る国での『偽王国』の連中の立場とか調べておきましょうか」と隊商長は魔女と若者に告げた。




