勝利伐採4
客車で揺られていると、いつもの通りに世界の噂などが聞こえてくる。
「今、世界では魔人の排除運動が活発化してますよ」
周囲を気にする魔女に隊商長は告げた。だが、内容はあまり面白そうなものでは無い。口角を下げた魔女に隊商長は「どこも同じような話題ばかりですよ」と返す。
「だから『霊の国』に魔人達が逃げてるんです」
その理由は(実験対象として)働き口をくれるから、らしい。『霊の国』は樹木が無くなったあとも亜人や魔人の研究を行なっていて、それの被験者として亜人や魔人達を募集している。きっと色々な実験ができるようになるのだろうと容易に想像できた。
「樹木に無くなった『地の国』『霊の国』『智の国』では資源は減りましたが、魔獣が減ったお陰で色々と事業が活発になり始めているそうです」
「魔獣が発生するか否かは人々の安全に影響が出ますからね」と隊商長は呟く。どうやら『智の国』も樹木が無くなってから周辺に発生する魔獣が弱体化しているようだ。
「それと、国境も元の大きさに戻るらしいですよ」
「ほんと?」
「ええ。鳥達が噂をしています」
「鳥の情報網を舐めないでください」とどこか自慢気に隊商長は魔女に笑いかける。樹木が無くなったお陰で魔獣の発生や危険度の下がった国は、補償に財政などが圧迫される心配が減った。だから、国境が元の形に戻る。
「土地が増えるなら、資源もまた増えるでしょうね」
隊商長はぽつりと零した。
「だから結局、樹木が有っても無くても国としては困らない……って事だと思うんです」
言われて、魔女は顔を上げる。
「それと、国境は樹木が生える直前までの形状にきっちり直す、と言う事で話は纏まっているそうで」
どうやら、国を大きくし過ぎると天罰が降るのだとか。ここしばらくの間、樹木の無くなった国(恐らく『地の国』辺り)では魔獣の被害の範囲に合わせて国境を広げていたらしい。だが、以前の国境を超えた途端に街中に強い魔獣が現れるようになったのだとか。
それは『霊の国』でも同じだったようで、それから『国境は樹木が生える直前までの形状にきっちり直す』決まりができたらしい。他の国も樹木が消失した場合も、そうなるよう取り決めが行われた。
「あなた達もそろそろ有名人になるかもしれないですよ。樹木を破壊する者として」
隊商長は若者達にも声をかけた。
「『樹木を破壊する者』?」
黒髪の若者が聞き返す。魔術使いの若者と聖職者の若者も不思議そうに隊商長を見つめ返していた。
「だって、あなた達が訪れた後に樹木は破壊されてますからね」
それは確かにそうだった。だが、若者達からすると樹木に入って10層目の辺りで出会った『精霊の偽王国』の者達と戦っているだけだ。樹木の探索も一応は行なっているのだが、『樹木を破壊する者』と言われても自覚が薄い。
だが、魔女は「(そういえばあの人が『樹木の破壊者』って呼んでたな)」とふと思い出す。
「もしかすると『精霊の偽王国』から本格的に狙われるかもしれないですよ。気を付けた方がいいです」
巨大樹木を発生させたのは『精霊の偽王国』だとされているから気を付けろ、と隊商長に釘を刺された。




