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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
巨大樹木:勝利

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勝利伐採3


 動く客車の中で、若者達は今回の旅の話を隊商長に話していた。


 『智の国』は不思議な国だったとか、自国と半分くらい雰囲気は似ていたけれど魔導機が色々あっただとか。

 事実、『智の国』は交易が盛んなので現存するあらゆる国の様々な文化がや情報が流れ込んでくる国だった。他にも医療も発展しており、魔道具としての義手や義足など医療器具も多種多様だ。魔女もお世話になったことがある。


「まあ、そうですね」


と隊商長も頷いていた。隊商も『智の国』とのやり取りはあるので、ある程度の情報は知っている。

 だが、隊商長は結婚腕輪に(ひび)が入って落ち込んでいる魔女のことが気になってしょうがない。


「(ひとまずの落ち着きは取り戻しましたが……またいつぶり返すかも分らないですし)」


魔女が子供になったばかりの話を聞くとかなり長い間情緒が不安定だったと聞く。今は10代半ばの見た目にまで成長はしているものの、情緒面の成長は不明だ。水分が貴重な荒野のど真ん中でこれ以上号泣されても困るし、泣き声で魔獣を集められても困るのだ。

 ちら、と魔女を見やると、鞄から取り出したらしい大きな猫のぬいぐるみを抱きしめて、それに顔を(うず)めていた。

 魔力の気配は随分と穏やかになっていたので恐らく眠っているのだろう。


「(……泣きつかれて眠ったんでしょうね)」


 まさに子供としか言いようのない有様だ。だが隊商長としては、このまま大人しく寝てもらう方が助かる。


×


「(……あれ、寝てた)」


 うっすら眼を開くと、客車は穏やかに揺れている。周囲の乗客達は小さな声で話をしていたり、先ほどの魔女の様に眠っていたりしていた。ふと若者達の居る方に視線を向けると、黒髪の若者は眠っているようだ。魔術使いの若者は本を読んでおり、聖職者の若者も経典に視線を向けていた。魔術使いの若者が目を通している本は魔術の構築に関する書籍で、昔伴侶が読んでいたものに似ている。色が違うので巻数か難易度が違うのだろうとなんとなく思考した。


「はぁ」


 腕輪を見つめて魔女は溜息を吐く。

 白銀の不変の金属にあの人の魔力の色をした石や装飾で飾られた、とても大切な腕輪だ。だというのに、手首側には亀裂が入っていた。それを見るとどうも気持ちがそわそわしてしまう。滲む涙に慌てて無事な手の甲側に向きを変えた。伴侶の魔力と同じ色をした魔石が嵌っている方だ。


「(……綺麗な、緑色)」


深い緑の色。


 この腕輪の材料は、婚約を結ぶ前に伴侶が集めたものだ。どうやって集めたのかは不明だが、よくこうもそっくりな色の石を見つけたものだなぁと感心している。

 腕輪に()()()()()()()()()は、伴侶である男の魔力の影響を受けたから。彼の魔力と同じ常盤色の、盛り上がった紋様だ。


 前の樹木で見せられた時、あの人の腕輪には魔女の魔力の影響を受けた装飾が綺麗に入っていた。それは魔女の魔力と同じ珊瑚珠色で、削れたような紋様だ。


「(……改めて客観的に見ると結構恥ずかしいな)」


 自身の腕輪が盛り上がった紋様なのは彼の魔力が馴染み難い魔力だからで、彼の腕輪が削れた紋様なのは魔女の魔力が馴染み易い魔力だからだ。互いの魔力が、互いに影響し合って生まれたもの。この世界に二つとない唯一無二の結婚腕輪である。

 今更ながらに腕輪を見た同僚が若干引いていた理由を思い知る。

 だって、お互いの魔力の影響を受けるなど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の証明のようなものだからだ。


「(やば、めっちゃ恥ずかしい……)」


 腕輪をそっと隠すが今更である。おまけに魔女の腕輪は普段は着けている分厚い手袋の中に隠れてしまうので、そう露出することも無いのだった。


「(……また繋がるといいな)」


思いながら彼を想い、彼とともに生きることを祈る。


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