一家に一台(人)……は欲しくないな。
「よいしょー」
薬術の魔女は自然の摂理を壊さないように、バランス良く草達を引き抜いていく。
「これは大丈夫、これはダメ、」
時折小さく呟きながら、薬術の魔女は薬草をいくつかの収穫袋に詰めた。
そして、
「あ、袋がいっぱいになっちゃった」
と、薬術の魔女が呟くや否や
「どうぞ、新しい袋です」
どこからともなく魔術師の男が袋を差し出し
「うん、ありがと」
それを受け取って滑らかに薬草採りを再開する。
「って、すごく滑らかに作業できてたけど、きみ一体どこから袋出してるの。それと引き抜いた草入りの袋どこよ?」
はっと我に返った薬術の魔女は魔術師の男に問うた。
「袋は此処から、薬草は貴女の寮の部屋で御座いますよ」
静かに、魔術師の男は大量の未使用の袋の入った薄い箱を懐から少し引き出し、ちら、と見せてくれた。
「それならいいや」
理由が分かればどうでも良いらしい。
×
「お、もしかしてこれは……」
小さく声を上げた薬術の魔女は、そっと見つめながら草をつかみ、根があまり千切れないよう優しくそれを引き抜く。
「うわぁ、やっぱり。すっごい珍しー」
と、目を輝かせながらその薬草を眺めたり光に透かしたりし、
「おーーー」
上に持ち上げ見上げた姿勢をそのままに、ころん、と薬草を見たまま薬術の魔女はひっくり返る。
「ふー、疲れた」
そして、そのまま四肢を投げ出した。見上げる空がすごく青い。
「……何をなさっているのですか」
空が高いな、とぼんやりしていると視界に魔術師の男が入った。
「や、だって珍しい薬草見つけたんだもん」
顔の距離が遠いな、と思いながら魔術師の男を見ると、彼はそっと片膝を突いてしゃがみ、薬術の魔女の頬についた土を拭った。
「きれいでしょー」
ほら、と薬術の魔女は土が付いたままの、抜きたての薬草を魔術師の男に見せる。
「然様で。……其れでも、外で寝転ぶ等、感心は致しませぬ」
「んー」
魔術師の男は呆れながらそう返し、薬術の魔女の方へ手を差し出した。起こすのを手伝ってくれるらしい。
×
随分と日が高くなり、また疲労度が随分と溜まったので、薬草採りを終える事にした。
「沢山の薬草を集められたようですね」
「うん! ありがと!」
薬術の魔女が手渡した最後の袋を、魔術師の男は寮の部屋に送る。
「……まあ。貴女の御部屋が如何なっているかは知りませぬが」
「え、なんでそんな不穏なこというの……」
「貴女が私が予想していた以上に大量の草を刈ったからで御座いますよ」
すん、といつも通りの澄ました顔で魔術師の男は答える。
「貴女が様々な薬草だけで無く、山菜も採り始めたので自業自得でしょう」
「きみが好きにしていいって言ったじゃん」
薬術の魔女は拗ねた様子で口を少し尖らせるが、魔術師の男は気にする様子もない。
「管轄外なのでお好きにどうぞ、とは云いましたが」
「ぐぬぬ……」
「袋には貴女の部屋に送る前に密閉と状態保存の呪いを掛けておきましたので、日持ちしますし、中身が散乱している事はないでしょう」
「わぁ、便利ー」




