勝利伐採2
「落ち着きました?」
「うん」
しばらく感情のままに泣かせておき、落ち着いた頃合いを見て隊商長は魔女に話しかけた。鼻や頬まで真っ赤にさせて目も赤いし大変な顔だが大丈夫そうだ。
「良かったです。そんなあなたにお土産ですよ」
「お土産!?」
驚く魔女に隊商長はお土産を手渡す。いそいそと魔女が包みを開けると、中には中身は柔らかく甘いお餅がいくつか入っていた。それと、花が一輪。
「匿名希望だそうで」
匿名希望、とは言いつつ多分誰からのプレゼントかはバレている。現に魔女はものすごく嬉しそうな様子で餅を一つ手に取っていた。
「あ、この花……卒業式の後に貰ったやつだ」
そして、魔女が餅を口にした途端に腕輪の纏う空気が変わった。それに気付いたのは隊商長くらいだった。魔女は呑気に餅を咀嚼し「柔らかくておいしー」と目を輝かせていた。
「チッ……ダシにされましたね」
何かの手伝いをやらされたらしい。それに気付き毒吐くが、終わってしまったものはしょうがない。隊商長は小さく息を吐く。
「体調に変化は?」
「わかんないけど」
柔らかく甘い餅を食みながらも魔女は首を傾げた。どうやら自覚は全く無いようだ。
「でも、なんだか安心する」
と魔女は腕輪を摩った。「(……まあ良いか)」と隊商長は目を瞑る。恐らく縁を繋げる何かを仕掛けられたのだ。害はなさそうなので放置した。
「よく見てください、腕輪、中の方はまだ繋がってるでしょう」
隊商長は魔女の右腕を取り、腕輪に入った亀裂を魔女に見せる。
「ほんとだ」
「だから、大丈夫です。でも、次の国かその次の国で見てもらうのも良いかもしれませんね」
「うん」
ようやく、魔女は落ち着きを取り戻した。
×
「大丈夫?」
魔女が戻ってくると、若者達に心配される。黒髪の若者が真っ先に近付き、魔女を覗き込んだ。
「その腕輪って何なの」
黒髪の若者に次いできた魔術使いの若者が腕輪について問いかける。
「変な縁がものすごく絡んでいる感じがするんですが……祓いますか?」
聖職者の若者も心配そうだ。
「やだ、祓わないでよ」
魔女は腕輪を庇うように抱きしめ、若者達から距離を取る。
「これ、結婚腕輪なんだ」
そして腕輪の正体を若者達に話した。
「結婚!?」
「指輪じゃなくて?」
「そういえば、かなり昔は指輪じゃなくて腕輪だったらしいですね……」
想定外の言葉だったらしく、若者達は驚き戸惑う。それを聞いて最近では結婚指輪が主流になっているんだったなと魔女は思い出す。
「昔、大好きな人と約束したんだ」
腕輪を撫で、呟く。『ずっと一緒にいる』と、約束をしたのだ。神の前で誓って、腕輪に願いをかけた。
「大好きな人……」
「約束?」
「結婚の、ですか」
衝撃を受けた様子の若者達に、みんな魔女のことを本気で幼い子供扱いしていたらしいとなんとなく察した。
「うん」
頷き、魔女は若者達を見る。
「だからとっても大事なものなの」
大事だから、ずっと身に付けていた。彼の事を忘れても、取る気は一切起こらなかったのだ。
「そうなんだ」
「悪かったわね」
「そうですね、酷いことを言いました」
魔女の言葉を聞き、若者達は反省したようだった。
「いいよ。わたしたちの結婚はあんまりいい印象を持ってもらったことないから、慣れてる」
『相性結婚で結ばれた愛のない結婚』だとか、『失敗例』だとか。『仲が良くない』とかもたくさん言われた。特に伴侶である彼の出身地である呪猫では『出来損ないとの結婚など可哀そう』とたくさん言われてきた。
「わたしと、あの人だけが知っていればいいんだから」
再び魔女は腕輪を撫でる。
あの人は今どこで何をしているんだろう、とふと過った。元気にしてると良いな。




