危険な人
すべてが終わった後、若者達と宿に戻る。そして、軍医中将は自身の権力を使って病院の一室を確保した。突然の来訪にその病院の者達は困惑していたが、「『精霊の偽王国』に誘拐されていた子供だ」と話をすると容易に許可が降りた。
驚くことに、魔女は初めは10代前半の見た目だったのだが、現在は10代半ば程度にまで成長していたのだった。原因は不明だと魔女は主張する。「気付いたらこうなってた」それを深掘りするわけにもいかず、原因は不明と言うことで落ち着いた。
「長いこと偽王国の騎士に捕まっていたって聞いた。バイタルチェックさせて」
そして魔女に機械を取り付けてゆく。怪しいものではなく、血流や魔力の数値などを計測するものだ。「詳しい数値を取るために少し日数がかかるかも」と若者達に話していた。
「大丈夫だった?」
「うん。ちょっぴり怖かったけど、痛いこともそんなになかった」
「『そんなに』ってことは多少あったってことじゃないの?!」
病院の寝台に横たわる魔女に黒髪の若者は心配そうに声をかける。
「本当に大丈夫? 変なことされなかった?」
「……変なことはされたような」
「どんなこと?! あんまり聞きたくないけど……」
「すごく丁寧にもてなされた」
「確かに、変かも」
そして、色々と話をしていた。魔女が居なかった時の出来事などだ。「ちょっと魔力が増えてるね」と保有魔力量の増加を指摘された。
「他には? 話してないこと、あるでしょ」
優しい声色で軍医中将は魔女に問いかける。
「忘れてたことを、いっぱい思い出したよ」
そして、魔女は捕まっていた時の出来事を(多少はぼかしつつも)話した。
「あの人との思い出とか、いっぱい」
まだ結婚生活の方が長いけれども、離れてから大分時間が経ってしまった。
「また会えたらいいなぁ」
「……また会えるよ。きっと」
軍医中将が優しく同意する。
「まぁその時は次こそ絶対捕まえるけどね。もっと強固な術式作っておくね」
「お仕事のことも忘れないでよね」と口を尖らせる魔女に「分かってる。母さんの方こそ、仕事のこと忘れないようにね」と言い、魔女は「大丈夫!」と拳を握る。
「えっと」
「仲睦まじいところすみませんが」
「お二人の関係って……?」
「あ」
若者達が居たことをすっかりと忘れていた。(もしかすると軍医中将は分かっていた可能性もあるが)
「それに、『母さん』ってどういうこと?」
「そういえば、偽王国の騎士の事を『父さん』って呼んでませんでした?」
「あ、しまった」
思わず軍医中将は口元を抑える。
「どうする?」
「別に記憶処理をしてもいいけど」
魔女と軍医中将は顔を見合わせる。確か、同僚の人事中将によれば機密事項になってるはずだ。
「記憶処理!?」
「……結構、物騒ね」
「……やるんですか?」
若者達が警戒したところで
「こら! もっと穏便にしなきゃダメ、でしょ! そんなとこばっかりあの人に似ちゃって!」
と魔女は頬を膨らませる。
「えー? 母さんも似たようなところあるよ?」
「うっそ!?」
「冗談(冗談じゃないが)。……じゃあ、記憶処理しない方向で話進める感じ?」
「うん。それでいいと思う」
とりあえず人事中将への報告は行うとして、軍医中将は若者達の方に顔を向けた。
「よかったね、きみ達。記憶処理しないってさ。代わりに口外禁止だからね」
「それは喜んでいいものなの……?」
にこやかに告げる軍医中将に黒髪の若者は困惑の表情をする。
「口外禁止って、関係性への言及のことよね?」
「そうだね。それと、それに関わる予想や推測も話しちゃだめだよ。記憶処理じゃすまなくなるかも!」
不安気な魔術使いの若者に軍医中将は同意する。
「この人、明るく軽い感じで物騒なこと言うんですけど……」
一通りのやりとりを見て聖職者の若者は肩を落とした。
×
それから色々あって、魔女達は次の国への出発を決めた。次に向かう国は『愛の国』だ。前回行くか迷った国である。




