平安泰平の儀
それから、若者達と軍医中将は協力関係となった。そして、色々な人達と勝負を行う。
勝負の内容は相手に委ねており、実に様々だ。殴り合いや斬り合いのような勝負事もあったが、舞踊や生花のようなものもあった。だが相手を打ち負かしてゆく。
「すごいですね」
「そうかな。できることをやってるだけだよ」
黒髪の若者が感嘆の声を上げると、やや照れた様子を見せた。
「教育熱心な人に教えてもらってただけ。先生が良かったんだ」
「どんな人だったんですか」
「厳しい人だったよ。自分ができるからって完璧を相手に求めるものだから」
懐かしむ目をしていた。その人のことを大切に思っていたんだな、となんとなく分かる。
「まあ、当人の限界値を見極めるのは上手い人だったからね。わたしのポテンシャルが高かったばかりに、色々と詰め込まれてしまった」
「それって自慢?」
「自慢ですよね……」
魔術使いの若者と聖職者の若者がジトッとした目で軍医中将を見やる。もしかすると、先ほどの照れた様子も態とだったのかもしれない。
「僕のこと、覚えていますか」
勇気を出した様子で、黒髪の若者が軍医中将に話しかける。
「きみのこと?」
「樹木の生えた村の、生き残りです」
軍医中将は首を傾げ、黒髪の若者をじっくりと観察した。それに耐えかねたようで黒髪の若者は自身について打ち明ける。
「ああ、きみか。よく覚えているよ」
驚くように僅かに瞠目し、軍医中将は頷く。
「元気なようでよかった。立派になったね」
柔らかい表情で、それは心の底から喜んでいる様子だった。
それから何度か勝負を重ねて、とうとう最後の一人となってしまった。
「これでわたしの勝ち。……つまり、わたしが樹木の元まで行ける、ってことでいいんだよね」
印が砕けて軍医中将の印に集まる。それを見届けてから、役人達が集まってきた。だが、それはどこか歓迎していないような気配がある。
「ごめんね。きみ達のさくらまで倒してしまったみたいで」
警戒する若者達を他所に、軍医中将は涼しい顔で周囲に声をかけた。
「思ったより弱かったものだから、わざとかと思っちゃった」
役人達は武器を構える。
「ご立腹かな?」
あれ、と首を傾げる軍医中将に「今更ですか」と聖職者の若者が呆れた。
「そうだった。わたし、印持ってるから印のない人には手を出せないんだった。ごめん、まかせた!」
「えっ?!」
×
「いやぁ、きみ達が強くて助かったよ」
倒れた役人達を他所に、軍医中将は若者達を労う。
「勝てなかったらどうしてくれるんですか!?」
「心配するところそっち?」
「役人達に逆らってしまったところを嘆くでしょう、普通は」
少し声を荒らげた黒髪の若者に、魔術使いの若者と聖職者の若者が困惑する。
そうしている間に、拍手をしながら新しい人がやってきた。
「役人たちの中でもそれなりの粒ぞろいでしたのに。お見事です」
格好からしてこの国の役人のようだった。だが、身分が上のような雰囲気がする。
「彼らの非礼を詫びましょう」
軽く謝罪し、
「樹木の根本に行ける道まで案内して差し上げます」
と若者達と軍医中将を見た。
「殺しても良いですが、樹木の根元までは辿り着けなくなりますよ」
そしてしばらく道を歩いて着いた、広い平屋の建物の玄関扉を開ける。
「どうぞ。ここから先に進めば樹木の根元にまで辿り着けますよ」




