樹木の神事
「『平安泰平の儀』?」
「偉い人達がそういう儀式を始めてるんだよ。儀式に参加するやつは参加時に印をもらうんだ。なんらかの方法で戦って、勝ち残った方が報酬を得る」
おうむ返しすると「そうだ」と教えてくれた男性は頷いた。
「だからって……なんであんな斬り合いとか……」
「印を持った者同士で戦うと斬り合いや殴り合いをいくらやったって死なねぇんだ。勝負がつくまではな。だから、けっこう過激な事をやってるやつらも多いんだぜ」
「勝負が付いたらどうなるんですか?」
「印が砕けて勝利者の印に吸い込まれていくんだ。そうしたら勝負は終わり。印のあるやつは印のないやつに手を出しちゃいけねぇ決まりもあるからそこで本当に終いだ」
「親切のようなそうでもないような仕掛けねぇ」
「人が死なないならいいんですけれど……」
魔術使いの若者と聖職者の若者が顔を見合わせる。
だが、どんどん激化してゆく斬り合いの様子を見ると、不安になった。
「本当に死なないんですか」
「ほんとだよ。この目で見たんだ。前回の儀式だったが」
「この儀式、何度かやってるんですか!?」
黒髪の若者が男性に問えば「ああ、そうらしい」と返される。
「この国の名物になってから、大分時が経ってるな。ま、樹木が生えたころから始まってるらしいからな」
「樹木が生えたころから!?」
「そうだ。『樹木の守護者』ってやつが現れて、『この国の安寧のために』ってこの儀式を偉い奴らに勧めたんだと」
「樹木の守護者って……」
「話によると白髪の長身の男らしい」
それを聞き、「偽王国の騎士だ!」と若者達は警戒した。
「とにかく、だ。それを繰り返してただ一人の勝者が選ばれたら、その人を樹木の元に連れて行ってくれるらしい。それで、樹木によって願いが叶えられるんだとか」
「神に舞や戦いを奉納するみたいな感じってこと?」
男性の言葉に魔術使いの若者が首を傾げた。
「あんた達、樹木のところに行きたいのか? だったら儀式に参加するしか方法はないぜ」
男性は斬り合いに視線を向け、
「どうやっても直接じゃあ樹木の根本には辿り着けない。どうやら、儀式で勝ち残ったやつだけが樹木の根本にたどり着けるんだと」
そう告げる。何人かが樹木へ向かったらしいが、何やら怪しい術で方向を狂わされて帰ってきてしまうらしい。
「ただもう、儀式が始まってるから途中参加は難しいかもしれんが」
斬り合いの勝負が着いたようだった。片方が倒れると同時に硬質な音が響き、手の甲に付いていたらしい印が砕けるのが見えた。
そして砕けた印は先程男性が告げた通り、勝者の方へと吸い込まれていく。
「ああやって印を集めたやつは、強い加護を持つらしい。負けたら奪い取った印は全部勝者の方に持っていかれるらしいが」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう!」
礼を告げ、若者達は男性と別れる。「おう、元気でな」と男性も軽く手を上げ挨拶を返した。
斬り合いの方は負けた側に聖職者などが集まり、手当をしている様子が見える。きっとあれなら大丈夫だ。




