怪しい儀式
若者達は『智の国』に夜中に到着した。
夜中だというのに街中は活気にあふれている。だが植物は少なそうだった。道には魔石を利用した街灯が並び、店達も煌々と輝く看板や文字であふれている。提灯の並ぶ店もあるようだ。
道は見える限りは全て煉瓦で舗装されており、荷物の運搬や人通りの良さに一役買っていそうだ。広い道のわきには運河もあり、交易の発展した街らしさを感じた。
空は暗くて分かり辛いが、遠くに見える橙色の輝き――恐らく樹木の葉だろう――が朧気に見える。星は見えないので、恐らく空気は結構汚れているのだと判断した。
「急いであの子を探さなきゃ!」
黒髪の若者は周囲を見回した。
「でもどうやって探すのよ?」
「かなり日付は経ってますし……」
魔術使いの若者と聖職者の若者は呆れ半分、焦燥半分で黒髪の若者に問う。
「ギルドに訊いてみよう。もしかするとここ最近の入出国者のリストを見せてもらえるかも」
「そう簡単に行くかしら?」
「ギルド長から特別な許可証貰ったから大丈夫だよ!」
「『自分を止めてくれたお礼』とおっしゃってましたが、結構すごいものですよね」
黒髪の若者の勢いに、魔術使いの若者と聖職者の若者はやや引き気味だ。もしかすると深夜テンションなのかもしれない。
「街の人に聞いてみる?」
「聞けるだけ聞いてみる価値はあるかもしれないわね」
「そうですね」
街の人から聞き出せたことは「知らない」ただそれだけだった。
前回の『霊の国』で共に居た白髪の若者の情報ですら出てこない。
「もしかして、同行してないとか?」
「追い越したとか?」
「それは無いと思いますよ?」
「何らかの方法で入国はしているはず」
「とにかく一旦宿探しましょう? 眠たいわ」
「そうですね。明日の朝から探してもいいと思いますよ」
「でも……」
「あの子がピンチだった時に寝不足で負けちゃったら元も子もないじゃない」
「それに、偽王国の騎士はあの子に執着していたみたいですからそう簡単には殺さないと思います」
「うーん」
悩みながらもひとまずは宿を取って眠ることにした。
翌朝。
総合組合でここ数日間の入出国者を確認してみると……
「あ、居た」
「でも記録は結構前になってるわ」
「偽装はできないはずですよね?」
記録の不自然さに首を傾げる。(ちなみに黒髪の若者は「(律儀に手続きしたんだ)」と妙なところに感心していたが手続きをしないと天罰が降るのでこの世界では当然の話なのであった)
ふと、外で騒ぎが起こっている気配を感じ、若者達は見に行く。すると、何やら勝負を行っている様子だ。
勝負の内容は斬り合いだった。
だが、周囲の者達は興味津々に見るか忌まわしそうに遠巻きに離れるかばかりで、誰も止めようとしない。
その上、止めようとしたら「儀式の最中だから邪魔するな」と周囲の人に言われる。
「死にやしねぇよ。そういう儀式だから」
見かねて近くにいた男性が若者達に声をかけた。
「そういう儀式?」
「そうだよ。『平安泰平の儀』って大層な名前が付いてやがる」




