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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
巨大樹木:栄光

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栄光伐採4


 それから荒野をしばらく進むと、遠くに何かが見えてきた。目を凝らしてよく見ると、塔や建物の塊だ。それを取り囲むようにやや低い位置に生えた壁らしきものも見えてきた。


「……あれが『智の国』?」


「ええ、然様で御座います」


魔女の疑問に偽王国の騎士は淀みなく答える。段々と慣れてきた。

 隊商が1週間かけて進む道を半日程度で通り抜けてしまったようだ。偽王国の騎士が魔術式で高速移動したり空間転移系統の魔術式を使用していたので当たり前か、とも思う。

 だが魔獣に遭遇しなかったこともその原因のような気がした。偽王国の騎士が食べた魔獣以外、何も現れなかったのだ。それを偽王国の騎士に問えば「私は其処等(そこら)の魔獣()りも強いですからね」とだけ返された。


 昼間だからか、門の前には行列ができていた。よその国から来たであろう旅行の集団や冒険者達の姿がある。


「……では、私達は此方(こちら)から参りましょうか」


 そうして偽王国の騎士は門から離れた場所に魔女を連れてゆく。


「ここって……」

「はい。国を護る国璧で御座いますね」


門からかなり離れているので周囲に人は居ない。どう見ても綺麗な国璧だ。


「何する気?」

「こうする気、です」


そして、国を守るように囲う壁に魔術陣を描いた。


「では。行きましょう、小娘」


 抱き抱えられているので拒否権はそもそも無い。そのまま偽王国の騎士は魔術陣に入って行く。

 そして、次の瞬間には国の中に入っていた。国に入る直前、何か揺らぐ気配を感じる。結界に入るような感じだ。


「違法入国はダメなんだよ!」


 降り立った場所は恐らく裏路地のような場所だ。昼間だというのに暗くて、嫌な空気がある。


「違法ではありませんよ。だって既に手続きは済ませておりますからね」

「え?」


頬を膨らませる魔女に、偽王国の騎士は偽造の通行手形を見せる。


「いつの間に」


「半月程度前に、です。貴女の部屋に忍び込み、魔力を採取し通行手形を生成する等、余裕でしたよ」


「何勝手に人の部屋に入ってきてるの!」


「貴女の出国の手続きも済ませておきました」と告げる偽王国の騎士に「((さら)う前提で予定を組まないでよ)」と計画力の高さに呆れた。


「気付かぬ方が愚かでは」

「はぁ?」


半月前、というと『霊の国』に居た頃だ。宿は全員別の部屋で泊まっていたが、本当にいつでも襲えたのだと気付いてぞっとする。


「『おばあちゃん』が黙ってないよ!」


「ですが、こうして許可は下りています。何も問題は無いのでは?」


 言われて「……確かに、そうかも?」と不思議に思う。駄目だった場合、即座に天罰が降るはずだからだ。

 ……実際のところ夢で「今回だけですからね」と溜息付きの警告があったのだが魔女は知らない。


 『智の国』は交易や機械類の発展した国だ。空気は少し煙っぽい。


「ほら、見えますか。あれが此の国の巨大樹木ですよ」


囁かれ、魔女は偽王国の騎士の視線を追う。


「……」


 橙色に輝く葉が太陽光に照らされ煌めいていた。だが空気が澱んでいるからか、少し曇って見える。

 場所からして、巨大樹木は国の中心にありそうだ。


「樹木の力でこの国はより発展しつつある。……樹木が消えると此の国は如何(どう)成るでしょうね」


面白そうに笑う偽王国の騎士に、「悪趣味」と魔女は顔をしかめる。


「では、そろそろ移動しましょうか」


魔女を抱えていない方の手を軽く動かした。途端に魔女の視界が塞がれる。


「なに」


「目隠しです」


「人攫いにしか見えないと思うよ」


言いつつも魔女は焦る。初めて訪れた国だし方角も分からなくなってしまう。このままでは逃げるのが一層難しくなりそうだった。


「今更ですね」


と偽王国の騎士が移動の術式を起動させる気配がする。

 ちなみに目隠しされてぷるぷると震える魔女を偽王国の騎士は見つめていたのだが多分蛇足だ。


×


 拠点に移動したらしく、空気が変わったのを感じた。


「特別ですよ。此の場所には今(まで)、私と式神以外は足を踏み入れた事が無い」


 降ろされ、目隠しが外された。どうやら建物の中らしい。外に目を向けるが、暗い空と広い庭のようなものしか見えなかった。


「此の建物は(へい)で囲われています。塀は結界の役割も担って居りますよ」


逃げても出るのは難しそうだ、と察する。

 木製の建物のようで、見た感じでは呪猫で見た建物の構造に似ていた。だが、偽王国の騎士は靴を履いたままだ。


「土足なの?」


「ええ、まあ。(ただ)、奥は違いますがね。なので、貴女の靴は預からせて頂きます」

「あっ!」


台に座らされ、偽王国の騎士は魔女の靴を脱がす。


「おやまあ。御御(おみ)足も斯様に小さく成られて」


目を細め、偽王国の騎士は呟いた。慈しんでいる様に見えるが、秘かに潜む加虐の気配があって安心できない。


「其の様に怯えずとも。今は傷付けませぬ」


()()」と意味ありげに目を細めた。


「いつかは傷付ける気があるってこと?」


「いいえ。ですが、何が起こるか分からないものでしょう。()()()()()()()貴女を傷付けてしまう可能は有る訳で」


「……ふーん」


「御不満でも?」


「ううん。きみがわたしに優しいらしいことはほんとっぽいなと思って」


「はぁ。今更ですか」


なんだか扱いが乱暴じゃないのだ。どこか丁寧で、魔女を必要以上に苦しめないような気配を感じる。


「ですが、解放はしませんからね」


「人質だから?」


「必要だから」


「わたしってそんなに価値ある?」


「ええ、無論。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふぅん」


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