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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
巨大樹木:栄光

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栄光伐採2


 その頃、魔女は偽王国の騎士に抱き抱えられて荒野を進んでいた。魔術陣で移動した先は荒野だったのだ。


「まあ、やろうと思えば出来ますが。此度は魔力の為に一旦は荒野を渡ろうかと思いまして」


偽王国の騎士は目を細めて笑う。他にも目的がありそうな気がしたが、それが一番の本音なのだろうと魔女は察した。

 移動の魔術式を器用に使い、高速で荒野を移動している。明らかに隊商よりも速い速度なので、隊商で追いかけても追い付けないだろうとすぐに理解した。


「ねぇ、そんなに魔力消費して疲れない?」


「私の心配ですか? 小娘は優しいですねぇ」


「もう少しゆっくりでもいいんじゃない?」


「ふふ。隊商に追い付かせる(ため)ですか? そうは言いましても先程申し上げました通り、魔力の為に私は此の(まま)で荒野を渡りますよ。速度は緩めませぬ」


魂胆があっさりとばれてしまう。そうだろうなとは思っていたが。


「舌噛んじゃうよ」


「貴女の舌が傷付いた成らば、直ぐに治して差し上げますよ」


楽しそうに偽王国の騎士は答える。だが嫌な治し方をされそうだ。例えば口の中に指を突っ込むとか。


「……」


「おや。もう会話は終いですか?」


口の中に一度、指を突っ込まれた気がする。随分と昔に。それを思い出し、顔をしかめる。(※この世界観では口に指を突っ込まれるのは結構センシティブな意味合いがあります)伴侶だった人がやったのだろうと思いたいが、それはそれでどうなんだと微妙な心境になった。


「どこに行くの?」


「先程も申したでしょう。『智の国』ですよ」


「きみが管理してるらしい樹木がある場所ってのはさっき聞いた。もっと細かい話」


「私の拠点です」


意外とあっさり、偽王国の騎士は魔女の質問に答えてくれる。もしかすると、彼は(魔女には)色々と親切なのかもしれない。何となく思う。


「なんでわたしを狙うの」


「大切なお方だからです」


「わたし、きみのこと知らない」


「……此れから知れば宜しい。時間は作ります故」


 少し声が低くなった。なぜだか偽王国の騎士は魔女が『きみのことを知らない』など、それに近い言葉を発すると不機嫌になるようだ。


「『やだ』って言ったら?」


「拒否権が有るとお思いで?」


魔女を抱える腕に少し力が篭った。それは魔女を逃さないという意思を感じさせる。


「貴女は今、私と共に居るしか生き延びる方法は無いですよ」


「なんで」


 偽王国の騎士の言葉に魔女は少し頬を膨らませた。どうやって逃げようと考えていたそれを邪魔されたからだ。


「此処は荒野。詰まりは奇跡の無い場所。雨は降らず其の上に貴女の大好きな植物も有りませぬ」


「……」


「此の様な荒野で、たった1人きりで隊商と合流する(まで)貴女が生きて居られるとお思いですか」


現実的な話だった。

 高速で荒野を移動してかなり時間が経っている。先述の通りに偽王国の騎士は隊商より遥かに速い速度で移動していた。つまり何らかの要因で途中で偽王国の騎士と別れても、隊商と出会うには時間がかかる。おまけに今居る場所が隊商の通り道とも限らない。


「……分かったよ。大人しくしとく」


拠点があるらしい『智の国』まで連れて行ってもらってからでも逃げるのは遅くないだろう。


「旅行、してみたいと仰っていましたね。貴女は」


「……え?」


 こうやって運ばれることに不思議な懐かしさを感じていた時、偽王国の騎士は懐かしむ様子で話しかけた。


「此の(まま)共に逃避行、等如何(いかが)です」


その声色はどこか嬉しそうだ。


「……なんで」


偽王国の騎士の言葉に、なぜか魔女は泣きそうになる。


「こんなの、望んでない」


心の底からそう思った。

 理由は不明だが違うと心が叫ぶ。そして魔女は涙が堪え切れなくなり、泣き出した。


「こんなの、違うもん!」


「ああ、泣かないで下さいまし。小娘」


偽王国の騎士の声は優しい。どうしてそんなに優しい声を出せるのだろうと不思議に思う。


「冗談で御座いますよ。ちゃんと『智の国』に向かいますから」


「目的地に着けば良いって話でもないし」


ぐす、と魔女は鼻を啜った。


「でしょうねぇ。処で貴女、今私に(さら)われている自覚有ります?」


「あるよ。目的は何? 身代金とかじゃないでしょ」


「目的。其の様なものを聞いて如何(どう)するお(つも)りで?」


「気になったの」


「……そうですねぇ。()()()()()で御座いまする」


「……えにし?」


「えぇ。其れさえ結べば私と貴女は何処に居ようとも必ず再び巡り逢える。そういう代物です」


「なんで、わたしなの」


「ですから、大切なお方だからと先程も申したでしょう?」


「でも」「貴女は私を知らぬ。……それは事実として認めましょう」


魔女に被せるように偽王国の騎士は告げる。やや不承不承とした様子だったが。


「だが、其れは其れ。私は貴女と縁を結びたい」


「……なんで」


「貴女が大切で、特別な御方だからです。其れ以上も其れ以下も御座いませぬ」


少し拗ねたような声色になった。


「貴女は私の生を変えた、()わば運命なのです。其の責任、しかと取らせて差し上げますので。御覚悟なさいまし」


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