駆け引きは無駄だぜ!
「もう、君は学生会には誘わない事にしたよ」
もしゃもしゃと薬草弁当を食べる薬術の魔女に、煌めく髪の男(要は学生会会長)は告げた。
「ふーん、そっか」
じゃあなんでわざわざ薬草園まで来たんだろうと思いながら、薬術の魔女は心底興味なく返事し、他の考え事を再開する。
「代わりに、全体の生徒会役員候補達の役職をずらし、この子を書記として末席に入れる事にした」
「へー。よかったね」
もしゃもしゃ。あの店の薬草は育ちが悪いだとか、歯応えが違うだとか、考えながら薬草を飲み込んだ。
「……何も言うことはないのか?」
怪訝な顔で問いかける学生会会長に
「何が?」
心底不思議そうに返した。
「……いや」
目を逸らす学生会会長を無視し、
「よかったね」
と、その2の方を見る。
「うん」
にっこりと笑みを浮かべた。
×
勉強がわかると、新たな理解の方法を知ると、色々なものが今までとは違う見え方ができる。それは、魔術師の男に教えてもらった法律の解釈だけでなく、薬草の効能の解釈や、育つ際に必要な栄養や環境など、本当に様々なものを新しく発見できた。
「(……そっか、ここはこうだから、)」
薬草の図鑑を眺めながら、薬術の魔女は頷く。テストが終わり段々と暖かくなる今の気候は一番のんびりと過ごせる時期だ。
薬術の魔女の本音は、学校を放り出して『薬草を摘みたい』『好きに薬を作りたい』『新しいものが作りたい』『得た情報を生かしたい』そんなところだ。
「(……早くお休みにならないかなー)」
と、図書館の椅子に座り、早る気持ちの代わりのように、足を小さくぱたぱたと動かした。
×
「……其れで。何処に行かれる予定でしたか」
「そこの山」
「…………でしょうね」
はぁ、と柳眉を寄せながら溜息を吐く魔術師の男を、薬術の魔女は見上げる。
いつかのように、意気揚々と山へ向かおうとした薬術の魔女の前に魔術師の男が立ちはだかったのだ。
今回も、前回と同じように日課の占いで色々と視たらしい。
「ねぇ、秘密権の行使って知ってる?」
「私事、私生活または秘密を侵害しない事で御座いますね」
「意味を聞いたわけじゃないんだよ」
「法律を覚えていて素晴らしいと思いますよ」
「わたしそこまで法律の興味がないってわけじゃないんだよ」
「然様で。其れで、何故入山なさりたいのですか」
魔術師の男が問うので、
「この草採りたいの」
薬術の魔女は素直に答える。
「駄目です」
自作の薬草図鑑を開き、該当のページを魔術師の男に見せるが、取り付く島もない。
「なんでさー」
頬を膨らませ、むっとしながら魔術師の男に聞くと
「魔獣が出没しており、一時的に立ち入り禁止区域に成りましたので」
魔術師の男からそんな答えが返された。
「えっ嘘!? いつのまに?」
「先週ですが」
「長いのか短いのかいまいち分からない時間」
薬術の魔女は少し不機嫌な様子を見せたままだったが、
「……では、同じ植物が採れる別の場所にでも行ってみますか?」
「え、結構遠いよ?」
そんな魔術師の男の意外な提案に、不機嫌な気持ちがすっかりなくなった。




