栄光の樹木伐採
隊商の者達は普段通りに別の国へ渡ろうとする者達や荷物達を運ぶため、客車や荷車、鳥達のメンテナンスを行っていた。
彼らの次の行き先は『智の国』である。商業や文明の発展した、蒸気の国。
自然や古い建物でいっぱいの、この『霊の国』とはほぼ真逆の国だ。魔術使いは少なく、代わりに魔導機や錬金術が発展したらしい。
そこへ、黒髪の若者達が駆け寄ってきた。
「この隊商、『智の国』に行きますか?!」
「急にどうしたんだ」
若者達はどうやら冒険者のようだ。格好からして黒髪の若者が戦士か前衛の類いで、薄青い髪の若者が魔術使い、黄色い髪の若者が聖職者だろう。
「次の国へ早く、行きたいんですっ!」
「何を焦ってる」
掴みかかる若者はどうやら訳ありのように見えた。だが、その願いを聞き入れる訳にはいかない。それを説明しても「どうにかなりませんか」と食い下がる。
そうこうしているうちに
「急かしても隊商は早く出ませんよ。必ず、定刻に出発します」
と少し苛立った声がかけられた。
「た、隊商長!」
金色に輝く美しい髪の羽人、隊商長が現れる。確か護衛のためにこの国に留まっていると聞いていた。誰の守護かは分からないが。
「あんた達でしたか。荒野渡りは羽人でも容易では無いんですよ。それなりの準備をしなければなりません」
腰に翼になった手を充て、困った様子で溜息を零す。とても優雅でさすが通鳥当主だと感心する。
「連れの子が、偽王国の騎士に攫われたんだ」
「……なんですって?」
黒髪の若者の言葉に隊商長は瞠目した。
「詳細を聞かせて下さい」
そして、若者達と隊商長は別の場所に移動していく。
×
「なるほど。急に現れて拐って行ったんですね」
話の概要を聞き、隊商長は納得する。どうやら偽王国の騎士が魔女を誘拐したらしい。おまけに彼らの目の前で。
「だから、偽王国の騎士に何かされちゃうんじゃないかって不安で……!」
「まあそうですね。あいつ今尋常じゃない様子ですし、何するかも分かんないですね」
随分と悪趣味なことをする、と隊商長は小さく溜息を吐く。魔女の回収と魔女と一緒に居る若者達への当て付けを同時に行うとは器用な事だ。
「だから、早く出発したいんです!」
「でもそれは無理ですね」
「なんで」
「さっき言った通り、隊商は定刻に出発するように定められています。それは国同士の決まりでもありますので。それをあんた達のためにずらすなんて出来ません」
それは隊商のためでもあるし、利用者のためでもある。到着時間は荒野渡りの難しさ故に定められていないのがせめてもの救いか。
「仕方ないわ。諦めましょう」
「これ以上、隊商の人達を困らせる訳にはいかないですよ」
魔術使いの若者と聖職者の若者が黒髪の若者を宥める。
「言った通り、焦っても仕方ありません。ただ、我々もなるべく早く次の国へ着くよう努力いたします」
「お願いします」
×
それから定刻になり、荷物と人を詰め終わってようやく隊商は出発した。
黒髪の若者達と共に隊商長も隊商に同行する。
それから荒野を進んで国が見えなくなった頃、黒い服の集団が邪魔に入った。『精霊の偽王国』だ。
「こんなことしてる場合じゃないのに……!」
忌々しそうに黒髪の若者が呟く。だが焦っても現状は変わらない。




