国を発つ(強制)
『霊の国』のこれからはそれなりに安泰のようだ。それが確認でき、若者達と魔女は一安心する。自分達が樹木を破壊したせいで国が潰れてしまったら困ってしまうからだ。
元より樹木は『破壊すべきもの』として定められているが、樹木のある世界になって時間がたってしまった。
「樹木が全部なくなる世界ってどんな感じなんだろう」
若者達は不思議そうにしている。
魔女は樹木がなかったころの世界を知っているが、若者達は知らないのだ。
「(……そっか。もう、樹木が発生してから……)」
月日が流れるのは早い。そうしみじみとしていたその時。
「どうも、『樹木の破壊者』御一行様。御機嫌麗しゅう」
突如、偽王国の騎士が姿を現した。
出国直前ですっかり気を緩めていた若者達と魔女は突然の襲撃に動くことができない。
それから偽王国の騎士は高速で魔女に近付き、ひょいと魔女を抱え上げた。
「わ?!」
「その子を返せっ!」
咄嗟に、正気に戻った黒髪の若者が武器を振るい、偽王国の騎士に刃を向ける。だがそれを軽く避けられてしまう。
魔術使いの若者と聖職者の若者も魔術や祈祷で応戦するも、あっさりと防がれてしまった。
「『返せ』等。元依り貴方方のものではないでしょうに。何を其の様に必死になっているのです?」
(次男や後輩の魔術師が居れば「お前が言うな」と言われんばかりの台詞だが)偽王国の騎士は届かない若者達の抵抗を嘲笑う。
「強いて言えば、私のものだと言うのに」
「いつからなったっていうの!」
「扨。初めて出会った時からではないですか? 私は一目で貴女に魅入ってしまった。……貴女もそうだったのでは?」
「離して!」
暴れる魔女を片腕で抱きしめ、もう片方の手でピッ、と魔女の杖に下がっていた札を切り離した。
「貴方達はどうせ『智の国』へと参るのでしょう?」
「なぜそれを!」
「成らば。『理由付け』してやるのもまた一興」
言葉とともに偽王国の騎士は移動の魔術陣を発生させる。
「どうせ来るなら『此方』に招いて差し上げる」
「『こちら』ってどういうこと?!」
薄く笑う偽王国の騎士に魔女が問うと
「私が管理致す樹木が丁度、『智の国』に御座います。是依り私は其の樹木へと向かいますので」
そう、目を細めて魔女を見た。それから偽王国の騎士は黒髪の若者達に視線を向ける。
「小娘を取り返したくば、来るが良いでしょう」
驚く若者達を尻目に、偽王国の騎士は魔女を抱えて姿を消した。




