準備の話
樹木から脱出後、若者達は20番目を総合組合に引き渡した。それから、総合組合の長も出頭してきたという。
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「まあ、出頭した方が罪が軽くなるからね」
などと総合組合の長もとい魔女の次男は戯けたように言っていた。次男との面会の許可が降りていくらか話をした。
その中で
「研究施設のデータは全て持っていって良いですよ」
と言っていたので、もらえるだけもらっておくことにした。宮廷魔術師とも協力をしていた(おまけに魔女達の国の命令で)ので、国への貢献などの話で罪はさらに軽くなるらしい話を同僚の人事中将から聞いた。
助け出した魔人達は、なんと「施設から出たくない」と主張する者が大半だった。「外よりも良い暮らしができる」からと。
無理矢理拉致監禁されているのだとすっかり思い込んでいたらしい若者達は混乱していた。
魔女の方は「(どうして拉致していたのかは知らないけど)当人達が納得していたなら別に問題はないんじゃない?」という感じだ。
ちなみに何故拉致していたのかという話を次男に聞いたところ、「その方が国の秩序を守れるからだよ」と答えた。
曰く、
「研究の資料になる対象を劣悪な環境で保護する訳にはいかないだろう。だが丁寧に保護して通常より良い暮らしをしているだなんて知られたら、働いているのが馬鹿らしく感じて自身を『魔人だ』と偽って研究の邪魔をされるかもしれないだろう?」
とのことだった。
それとあえて怖い思いをさせて、互いを見張るような関係性になると軽犯罪が減るとか。そうやって総合組合の長としての業務負担を軽減させていたという。
密告性にさせて密告させられた対象は本当に魔人でも、魔人でなくとも一時的に保護をしていたらしい。そういう者は元から居場所のない差別される対象のことが多いので保護をし、代わりに仕事をさせていたのだとか。
だが、環境が環境なので、研究対象達を施設から出す訳には行かなかった。情報漏洩を防ぐためだ。
その結果、色々な噂が立ってしまったということだ。
方法はあまり宜しくなかったけれど、次男は彼なりに考えがあった。それが分かって魔女は一安心する。
×
宿に戻ると、若者達は次の国について話をしていた。『霊の国』の樹木は無くなってしまったので、次の樹木を目指したいのだとか。
「次の国は『智の国』じゃない?」
「でも、『愛の国』も同じくらい近いですよ」
魔術使いの若者と聖職者の若者で意見が分かれているらしい。黒髪の若者は二人の間でうんうんと唸っている。
それを横目に、魔女は次男と偽王国の関係を考える。
『大事な人を救うため』とその時の彼は答えていたが、伴侶の補佐官のためだけだったのだろうか。実際、彼がしていたことは魔女の役に立つ内容だった。だから、彼の言う『大事な人』には養母の魔女自身のことも含まれていたのかもしれない。そう思った。
それから、次男との会話を思い出す。
「あなたの伴侶はどうしようもない人だ。でも、あなたの事をすごく大切に思っている。それだけは忘れないでいて欲しい」
真剣な表情だった。それから「でなければ、あの人が……」小さく言い淀み、
「いや、何でもない。とにかく、あなたはとても良い人と縁を結んでいた、という話です」
そう、教えてくれたのだ。
魔女が忘れてしまった『伴侶』。その人は今も魔女のために頑張っているのだとか。
「……うん。信じてみたい」
樹木が現れてから何年も姿を見ていないけれど。
「ね、どっちがいいと思う?」
急に声を掛けられて顔をあげると、黒髪の若者が心底困った様子でこちらを見ていた。
「何の話?」
「次に行く国の話」
首を傾げると呆れた様子で魔術使いの若者が答えてくれる。まだ悩んでいたらしい。
「んー、『智の国』かな」
地図を見て、魔女は答える。
樹木の実"イェソド"がそう言っていたから。




