次男の独白
樹木の中は至る所に魔術陣が張り巡らされていた。そして、不思議と魔獣の姿がほとんど見られない。それは9階層目でも同様だ。
「ここから先には、行かせられないな」
魔女と若者達が9階層についた時、後ろから声がした。
「悪いけど、関係者以外立ち入り禁止なんだ」
振り返ると、総合組合の長が立っている。
×
「夜中に樹木に勝手に入るとは。悪い子達だ」
いつものように柔らかい物腰で、普段と変わらない態度で若者達を見た。ここに居ると思っていなかったのか、若者達は目を見開き固まっている。
養母である魔女も、驚き固まっていた。
「どうやら迷い込んでしまったみたいだね。出口はこっちだよ」
迷い込むにしては入り込み過ぎだろうに。あからさまな言葉で、若者達に警戒を与える。
「なんで、ここに」
「ここの責任者だからね」
黒髪の若者の言葉に、なんともない自然な様子で返した。
「あなたは、偽王国に協力しているの」
明確に『信じたくない』と言いた気な様子に、小さく笑う。随分と信頼されていたようだ、と実感した。
「……大変だったよ、色々と」
言葉に含みを持たせれば、協力しているらしいと判断したのか
「……操られてるんですか?」
黒髪の若者は問いかける。
「君達にはどう見える?」
普段通りの気安い返答が怪しいと感じたのか、逆に警戒されているようだ。
「偽王国のこと、どう思ってる?」
「……あまり、宜しくない集団だ」
世界に貢献するようなことをせずに好き勝手している集団など、好ましくない。逆に言うと、自身は世界のために役立つことをしていると自負があるかのようではないか。
「なんで手を組んでるの」
「何故だと思う?」
逆に問いかけた。考えさせ、意見を聞くことで彼らがどのような思考の主かを知ろうとしたのだ。養父によると彼らは『樹木の破壊者』。世界の命運を彼らに委ねて良いのか、動作予測の精度を上げるために必要だった。
「脅されてる?」
「大事な人が、囚われているからだよ」
そう答えると、動揺する若者達。
動揺したのは、総合組合の長に弱点になりうる人物がいたという事実や大事な人が人質になっていいなりになっている被害者だったと知ったからだろう。
戦って良いのか、と迷いが僅かに生じている。
それをよそに、話を続けた。
「大事な人を救うために、仕方なく(偽王国の手伝いを)やった。その事実はある」
きっと、彼らには意味は正しく伝わっている。だがそれをちゃんと言わないのは、何をやったか明確に言わないことで仮にこの会話が他人に聞かれた時に他人からの追及から逃れやすくするためだ。
(魔人を捕縛することを)とか(魔人の研究を)とか言い換えるために。
「それに私は知らなかった。世界がこうなるとは……」
養父は知っていたのだろうか、と思う。
だが、魔力が暴走すると知っていたのできっと想定済みだったのだろうな、と目を瞑った。根拠無き自信に似た、深い信頼がある。
「まあ、起きてしまったことはどうしようもない。神でもない限り、戻すことは不可能だ」
開き直って言った。それが事実だからだ。
あの二柱が何も手を出さないということは想定通り、またはどうとでもできるのだろう、と考えている。それに、神罰がないので今のところ怒られる等はあれど多分、社会的な重い罰はない。自分でどうにかできないような何かがあったら養父やあの二柱に責任を取ってもらうつもりだ。
「それに、私はもう引き返せない場所まできてしまった」
始まってしまったなら、争わずに流れに従った方が良い。だが、流れに一度従ったなら、終いまで従い続けなければなるまい。
「やるしか、ないんだよ」
自身を見る少年達の純粋無垢で無知なところや真っ直ぐさに少しだけ加虐性を生じるかもしれない、と嘆息する。多分、呆れと羨みとストレス発散だ。
それに、養母達が来たおかげで強制終了なのでそこがちょっと惜しい。そう、少し思った。




