目的に向かう
「よし、樹木に向かおう!」
黒髪の若者は魔女と仲間達に告げる。魔術使いの若者も聖職者の若者も力強く頷いた。
「樹木に行って、どうするの」
若者達の目的を魔女は問う。そうして彼らの目的と魔女自身の目的の認識の違いがないか確かめたかった。
「樹木に行って、真実を確かめよう。そして、研究施設に捕えられた魔人達も助けに行こう」
「そうだね」
魔女の目的と若者達の目的は一致している。安心して魔女は若者と同行できそうだった。
×
それから、どうやって研究施設に入るのか計画を立てる。
「裏口から入りますか?」
聖職者の若者が提案した。警備が手薄だろうと踏んだのだ。
「正面から!」
「大丈夫かしら」
堂々と告げた黒髪の若者に、魔術使いの若者が心配そうに呟く。時間を取って計画を立てていないのだから、裏口から入っても正面から入っても同じだろう、と黒髪の若者は主張した。
「大丈夫な気がする」
そう、魔女は呟く。根拠はない。ただの勘だった。
×
その日の夜、魔女と若者達は研究施設に忍び込む。夜間だからか人は少なく、警備の魔導機達が静かに徘徊している。
正面の警備は思ったより手薄で、容易に忍び込めそうだった。するり、と若者達は研究施設に侵入する。魔術使いの若者の仕掛けた魔術式によって、防犯用の記録魔導機には映らないようになっているらしい。
「普通の記録機には映らないわよ」
そう主張する。それは法的に大丈夫なのかと魔女は不安になるが、今回の侵入の役に立っているので今更文句は言えない。
他の警備用と思われる魔導機に触れ、中の回路を魔術使いの若者は改造する。
「こういうのは案内させた方が早いのよ」
だそうだ。他の魔導機は他方の魔導機に影響しないよう避けて通る性質があるために、他の警備用の魔導機に見つかることもない。
その矢先、泊まり込みで来ていた職員に見つかってしまう。
職員が慌てて警備員達を呼び寄せた。
それを退けるが、魔女と若者達の行き先を職員達が妨害する。
「君達は、魔人が悪い存在だと思ってるの?!」
黒髪の若者が職員に問いかけると
「お前達は何も知らないからこんなことができるんだ!」
と、職員達は慌てて若者達を止めようとする。
「侵入者達を止めろ!」
「魔人を外に出した方が危険なんだ!」
彼らの様子を見て、『自分達がしようとしていることは正しいことなのだろうか』と魔女は不安になる。だが、周囲の人達の怯えようを見れば、職員達が絶対に正しいとは言い難いことだ、と思う。
次男に会えたら、彼と会話をしよう。そう魔女は決意する。
×
奥まで進んだ矢先、魔術式で封じられている箇所があった。
「どうしよう」
魔術使いの若者でもその術式は解けない。あまりにも密度が高く綿密に構築されていて、破壊する隙間がない、との事だ。
すると、
『困っているようだな』
魔女の持っていた札が淡く光り、ぼんやりとしたものが姿を現した。
「薄紫のねこちゃん!」
『霞色だ。此処を開けば良いのだろう?』
そう言い、触れるだけであっさり魔術式を解いてしまう。甲高い音を立て、魔術式が砕けたのだ。
「すごい」
若者達は感心する。
『彼の子の式は堅実だが、矢張り脆いなぁ』
目を細め、呪猫当主は小さく笑った。
『だが。崩される前提で術式を組み上げておるな』
ぼそりと小さく呟く。若者達は気付いて居なかったが魔女には聞こえていたので「どういうこと?」と小声で聞き返した。
『恐らく、お前達が彼の子の元へ向かう事は予想済みだ』
『罠かも知れぬ』と呪猫当主はのんびりした様子で教えてくれる。
「そんな」
『まあ落ち着け。何方にせよ、行かねばならぬのだろう』
「しばらく様子を見ようってこと?」
『そうだ。死にはせぬ。そういう子だろう?』
「……」
次男は人を殺すような子じゃない。それは、確かにそうなのだ。
それから、呪猫当主が建物内の魔術的機構を色々と解除してくれる。
『疲れた。なので私は一旦札の中に戻るとするかな』
「ありがとう!」
若者達は軽い調子で呪猫当主にお礼を告げた。
『……此れでも私は大公爵なのだが』
呆れつつ札の中に消える。きっと力を使ってしまったからなのだろうと魔女は思った。あとで次女に伝えておこうと思う。




