基礎伐採4
「こんな時に……っ!」
チッ、と隊商長が舌打ちをする。運行の邪魔をされているので相当に苛立ったようだ。
「あなた達は客車に留まっていてください。対応します」
そう客達に告げ、隊商長は客車から離れた。
「一体、何の用事ですか」
隊商の邪魔をした『精霊の偽王国』の者に鋭い視線を向ける。目の前に立ったその人物は随分と背の高い、知り合いだった人物だ。
先程とは別の意味合いで隊商長は舌打ちをする。
「何であなたが」
「『偽王国の騎士』ですので」
苛立つ隊商長に対し、偽王国の騎士は涼しい顔で客車に視線を向けた。
「……あなたみたいな人が、賊の真似事ですか。らしくないですね」
「此の隊商、黒髪の若者と『魔女』が居るでしょう」
偽王国の騎士は確信めいた様子で隊商長に問う。
「はっ、荷物を明け渡すとでも?」
「ああ、来ましたね。彼等ですよ用事が有るのは」
振り返ると黒髪の若者と魔女が客車から出ていた。
「わ、わたし、止めたんだよっ!」
魔女が泣きそうな顔で隊商長に告げる。魔女と黒髪の若者達は同行している様子なので、優しい魔女は心配になってそのまま付いて来てしまったのだろう。
「その男、僕達を追ってきたんだ。僕達でやるから隊商長さんは下がってて!」
黒髪の若者は叫ぶ。その後ろには仲間であろう薄青い髪の魔術使いの若者と黄色い髪の聖職者の若者も居た。
「早速約束破りやがりましたね畜生共!」
歯軋りをし、隊商長は毒づいた。
様子を見る限り、薄青い髪の若者や黄色い髪色の若者もやる気のようだ。現状がどうであれ、相手は宮廷魔術師だ。
隊商長自身はともかく、彼らが宮廷魔術師相手に勝てるとは到底思えない。無謀だと隊商長は顔をしかめる。
「大事な荷物を畜生扱いですか」
「うっさいですね。アンタが出てこなけりゃこうはならなかったんですよ!」
「クク、其れもそうですね」
「笑ってんじゃねぇですよこの悪漢」
駆け寄ってくる若者達に視線を向けながら偽王国の騎士は呟いた。だが隊商長はその視線が魔女しか見ていないことに気付き、呆れる。
「下がってくださいませんか」
魔女を見つめたままだったが偽王国の騎士は隊商長に取引を持ちかける。
「仕事の邪魔されて大人しく引き下がるとでも?」
「『偽王国の連中に襲われた』と言えば運行の遅れ等許容されるでしょう?」
「何が目的です」
「其処な童共の実力確認をしたいのです」
「……殺さないですよね」
「貴女が引き下がってくだされば、荷物には一切手は出しませんとも」
「隊商の名を穢すような事も致しません」と、偽王国の騎士は告げた。
「本当、らしくない、じゃないですか」
そんなに必死になって何をしているんです、と唾を吐きそうな表情で隊商長は偽王国の騎士を睨んだ。
×
「……来ましたね。荒野の中待機していた甲斐が有ります」
魔女と黒髪の若者達が近くまで来ると、偽王国の騎士は僅かに目を細める。どうやら待ち伏せしていたらしい。こんな暑い荒野の中で体調は大丈夫なのかと魔女は少し気になった。
「なんでこんな事をするんだ」
「隊商に迷惑がかかっているのに」と若者達は主張する。隊商の運行には色々な組織が関わっていた。総合組合や交易商や各国などだ。だから、1日も無駄にしている時間は無い。
「少々早いもので。調整をさせていただきます」
偽王国の騎士は答えにならない言葉を返した。彼あるいは彼らにとって、何かが良くなかったらしい。
「足止めって事?」「そんなの自分勝手だよ」
騒ぐ若者達を無視し、
「小娘。また会えましたね」
偽王国の騎士は魔女を見て嬉しそうに目を細めた。
「別に会いたいなんて言ってないもん」
「其れは残念」
魔女が顔を逸らすと彼は静かに笑った。それが魔女には寂しそうに見えて、きゅっと心が痛くなる。
「では気を取り直して。足止めをさせて頂きましょう。式神は如何です? 土塊ですが」
偽王国の騎士が札を地に置くと、札の周辺の地面が変質し巨大な土の塊となって動き出す。
「……チッ、荷物には手を出さないって言ったばかりでしょうが」
呟き、隊商長は防御の魔術式を周囲に張り巡らせた。恐らく隊商長が防御をする前提で向こうは仕掛けたのだ。
「野郎……後で高く付きますからね」




