基礎の樹木伐採
移動に参加する人々は巨大な鳥の引く客車に乗り込むように指示された。誘導に従い魔女と黒髪の若者達も他の客に合わせて客車に乗り込む。今回の旅路は魔女や黒髪の若者達だけでなく、国を渡りたい数人とも一緒だ。
「改めて、自己紹介いたしましょう」
頃合いを見て、隊商長は黒髪の若者達の方を向いた。他の隊員達は別の利用客の方や荷物の方について、それらを守ろうとしている。
「私はこの隊商の長。要は責任者です。隊商はあなた方の様に国を渡りたい人や荷物を守る、荒野専用の護衛。必ず、私達の指示には従うようにしてください」
自己紹介を終えた後、隊商長は、ちら、と魔女の方を見た。
「配慮は必要ですか?」
同行者だと判断した黒髪の若者達に問う。小さい子供(の姿)だからか、荒野の環境に対応できるか心配らしい。
彼らは「あの子が危なそうだったらお願いしたい」と答えた。それを受け、隊商長は「どうしたいですか」と魔女の視線に合わせて屈む。
「大丈夫。薬もあるし」
それに、これでも軍人だから体力は持つのだと、魔女は首を振る。それに、魔女は魔力の回復が早く、それと同様に体力の回復も早い。
「そうですか。辛くなったら即座に教えてくださいね」
「あなた達を無事に最後まで届けるよう言付けられてますんで、安心してください」と、隊商長は少し柔らかく微笑んだ。
羽人で構成された隊商はたくさんの荷物と共に荒野を越え、国から国へと移動する。
魔女が振り返ると、つい先程まで居た『地の国』が大分遠くになっていた。周囲は丈の短い乾燥に強い植物や茨、砂地になり始めている。
鞄の中に入れた薬の種類を思い出し、「(よほどなことが起こらない限り、大抵は大丈夫かな)」と小さく息を吐いた。それを緊張ととらえたのか「大丈夫。僕達がいるよ」と黒髪の若者が声をかける。
「うん。ありがとう」
不安なのは魔力水の個数だけだな、と思い至る。住んでいる屋敷にはそれなりにたっぷりと在庫はあるのだが、鞄に詰めたものはさほど多くない。ちゃんと補充しなきゃと魔女は唇をきゅっと結ぶ。補給するにはいつの間にか持っていた木の札を使って屋敷に帰ればいい。
「元宮廷魔術師の隊商長がいるからもう安全だ」
隊商の隊員達や他の旅行者達は口々にそう述べた。
元宮廷魔術師の隊商長は信頼されているらしい。『宮廷魔術師』ってすごい仕事なんだな、となんとなく思う。何故だか、じわ、と涙がにじんだ。
それからしばらくして、周囲にはもう乾燥に強い植物か砂地しか見えなくなっていた。
荷台や客車を引く鳥達は荒野を長距離歩くことになっても耐えられるような生態をしている。世界が変わる前からこのような鳥は居たらしいが、世界が変わってからはより長距離、より重量のあるものも運べるように変わったという。
「隊商ってどうやってできたんですか」
黒髪の若者は興味深そうに、御者をしている隊員に声を掛けていた。
「今の若者達は知らないのか。……仕方ない、少しだけ話してやる」
そして、隊員は隊商の成り立ちをざっと紹介する。
隊商を構成するのは鳥の要素を持つ羽人だけであるとか、なぜ羽人だけで構成されているのかとか。簡単に言えば魔女の居た国の通鳥の者達が世界の変化に合わせて姿を変え、差別が面倒になったから国の外に出ただけである。隊商の隊員は大体、魔女の祖国の出身者だ。
それのついでに、と交魚の『回遊』の者と手を組んでいる話もしていた。
「……そういえば、あの子元気にしてるかな」
『あの子』とは魔女の友人の友人Bの事だ。彼女は『回遊』グループの首領をしている。
「元気にしてますよ。魚や船とか乗り回して色々な施設に余った魚を卸したり物品を寄付したりしてます」
客車の後ろに居た魔女に、外から隊商長が小さく声を掛けた。
「そっか」
今も変わらず元気であることが知れて、魔女は嬉しくなった。




