後始末の話
「樹木消えちゃったね、『呪う猫』」
とある森の中の拠点で、『黒い人』は少し残念そうな声色を溢した。
遠方を見る魔術式で樹木の消失を確認したらしい『呪う猫』は
「占い通りです。……是で事が始められそうだ」
帳面を取り出しながら、そう答える。
「やっぱり『命の息吹』ってばすごいねー」
どこか満足そうな声色で『黒い人』は感嘆した。
「其れは無論、貴方方の加護の賜物でしょう」
「まあ、そうなんだけどね」
少しつまらなそうな声色に変わる。もう少し嬉しがっても良いのに、と言いた気だ。
「上手く行ったようで、何よりです」
『おばあちゃん』が姿を現した。いつも通りに特に動揺も感情の変化もない、平定な様子だ。
「……それでは、しばらくの間お別れですね」
『おばあちゃん』は『呪う猫』を見つめる。
「わたくしは公平を司る者。ゆえに、これ以上の肩入れは難しいでしょう」
「わたしはお別れしないよ。母の性に則って贔屓してあげるから、安心してね」
『黒い人』は少しだけ口元を動かして笑った。「……だから心配なのですよ」と『おばあちゃん』は溜息を吐く。
「えー、どうして」
「貴方の元が『悪意』なのだから、心配なのですよ」
口を尖らせる『黒い人』に『おばあちゃん』は眉尻を下げた。「『悪意』って、後で人間が足しただけの性なのに」と不満そうだ。
「ともかく。わたくしが手伝えるのはここまで。次はあの子を手伝いますが……見守っていますよ」
「成功を祈っています」と、『呪う猫』に告げる。
「承知致しました。では、私は後始末に行って参ります」
『呪う猫』は頷き、拠点より出た。
「うん、ばいばーい」「気を付けてくださいね」
×
月の無い深夜、偽王国の騎士は巨大樹木の有った場所に辿り着いた。
場を荒らされるのを防ぐためか、規制の結界が張られていた。その結界越しに、偽王国の騎士は見つめる。
「……まさか、本当に樹木を破壊してしまうとは」
規制の結界をすり抜け中に入ると、巨大樹木が生えていた場所には巨大な『穴』が空いていた。
「報告する必要がありますかね」
口元に手を遣り呟き、偽王国の騎士は穴へ飛び降りる。
それから数刻後、マーブル模様に鈍く輝く物体を手にした偽王国の騎士が穴から出た。
椀のようなものが二つ。それらは向かい合わせればぴったりと綺麗な球体になるだろう形状で、硬いものだった。それはまるで種の殻のように見える。
それを偽王国の騎士は樹木の葉で丁寧に包み、入った時と同様に規制の結界を通り抜けた。
「『殻』の回収はできたか」
結界をすり抜けた先に、ローブ姿の者が立っていた。
「えぇ、無論です。——“キムラヌート”、無事回収致しました」
「じゃあさっさと次に行くぞ。もたもたするな51番目」
ローブ姿の者は不足無くきちんと任務をこなした様子に苛立っているようだ。そのまま、ローブ姿の者は先を進む。
51番目と呼ばれた偽王国の騎士は答えず、ただ薄く微笑んだだけだった。




