国を出発する
巨大樹木を伐採してから数日後。
魔女と若者達は、まだ樹木がある次の国に向けて出発する計画を練っていた。
「次、どこの国に行こう?」
卓に置いた地図を囲み、若者達は思案する。
「一番手っ取り早いのは、すぐ近くの『霊の国』よね」
魔術使いの若者が薄青い髪を弄りながら呟いた。
「巨大樹木のある国……はたくさんありますからね」
黄色い髪の聖職者の若者は少し困った様子で地図を見つめる。
「君はどう思う?」
黒髪の若者が、魔女に問うた。
「……多分、『霊の国』が良いんじゃないかな」
少し考え、魔女は答える。
「どの樹木よりも先に伐採した方がいい。……そんな気がする」
巨大樹木の『実』——“マルクト”が、次に行くべき樹木の方向を教えてくれていた。
でも、そのことは魔女は伝えない。
巨大樹木の『実』を見たのは魔女だけだったからだ。
「じゃあ、『霊の国』に行こう」
黒髪の少年は周囲に視線を配る。
「そうね」「そうだね」
他の若者達も異論は無く、あっさりと決まった。
「じゃあ次の国に向けて、出発の準備だ」
魔女と若者達は、次の巨大樹木に向けて旅立つ準備を始める。
×
荷物をまとめながら、魔女は樹木伐採後の次男の言葉を思い出す。
「無くなった樹木については、心配いらない」と次男は言っていた。
「寧ろ、樹木が無くなったおかげでもっと発展するだろう」とのことだった。
樹木が無くなった、ということはその分資源が失せたことになる。だがそれ以上に魔獣の危険が無くなったことが、さらに人を集まるきっかけになるだろう、ということらしい。
それほどまでに魔獣の被害は恐ろしいものだった。
「しかし、総合組合の仕事は無くなるかもしれないけれど」
そう次男は少し朗らかに告げていた。
巨大樹木が無くなったのならば、総合組合の傭兵、つまりは冒険者達はほとんど来なくなるだろう。
だから、「面倒事が減りそうで何よりだ」と。
「……あの子、本当にあんまり人好きじゃないよね」
魔術で拡張した旅行鞄に荷物を詰めながら、魔女は呟く。
この鞄は昔、あの人には内緒で買った少し特殊な鞄だ。少し高かったけれど、収納能力が凄まじい。
たくさんの薬草や薬生成に使う道具、秘密で描いたあの人の絵を幾つか隠すために買ったのだ。
ふと顔を上げる。
「……あの人、って誰だっけ」
鞄の中に番号を忘れて開かない場所があるのを思い出した。誰かの、何かの日付だった気がするのだが。
胸がきゅう、と締め付けられて涙が溢れる。それを拭って荷物を詰めた。
×
そして、国を出る日となった。
基本的には荒野を渡って他国に移動するしか手段はないらしく、若者達は隊商と共に国を出るらしい。
転移門を使った方が早くて安全なんだけど、とは思うも若者達は許可証を持っていないし旅もできるからまあいっか、と魔女は考えた。
巨大樹木を伐採したおかげか、総合組合の職員達に見送られて国の門を出る。
「どうも。今回の旅路で貴方方を『霊の国』までに届ける隊商の長です」
魔女と若者達の前に、背の高い人物が現れた。
「あ!」
それは魔女の同級生だった。すっかり腕が翼になり人型の鳥のような身体になってしまっていたけれど、美しい顔と艶やかな金色の巻き毛は健在で、不思議な美しさを醸し出していた。
「どうしたの」
声を上げた魔女に、黒髪の若者が首を傾げる。
「えっと、」
「知り合いなんです。時折、薬を卸してもらっているので」
何と言おうかと言葉を迷っているうちに、巻き毛の子、つまりは隊商長がなんともない様子で答えた。
「とにかく。貴方方を危険な目には遭わせませんからね」
「滅多なことがない限りは」と、少し不穏な言葉を付け足したが、
「隊商長が居れば大体の低レベルな魔獣は寄ってこないからな」
「運が良いな」
と他の隊商の者達が口々に溢して魔女や若者達を励ました。
そうして、魔女と若者達は隊商と共に『地の国』を出国した。




