小さな違和感
若者達と魔女が総合組合に戻った後、総合組合の長に呼び出された。一体何の用事だろうかとしばらく待った後。
「……君達、巨大樹木を伐採したみたいだね」
総合組合の長、つまりは魔女の次男が声をかける。様子はいつも通りに見えるが、魔女にはどこか気を張り詰めているような、気配の揺らぎに気付いた。その顔を見上げるも、よくわからない。魔女は内心で首を傾げる。
「公開しているのは第三層、つまりは扉の前までだったというのに」
「十層まで行くなんてね」そう、苦笑された。そこで、魔女は忘れていたことを思い出す。扉があるのは3層目だったことを。
苦笑した総合組合の長に対し、魔術使いの若者や聖職者の若者が「ごめんなさい」「申し訳ありません」と頭を下げる。だが、黒髪の若者は『なんで頭を下げるの?』と不思議そうにした。
きっと魔術使いの若者と聖職者の若者は、観光や材料採取のような商業や色々の大本になっていた巨大樹木が消失してしまったことに罪悪感を感じてしまったのだ。そして、それを叱るために呼ばれたのだと考えたのだろう。
「いや、なってしまったものはしょうがない」
総合組合の長は穏やかに返した。
「それに、そもそも無いほうが正常だったんだ」
そう、樹木が消えたことは咎めない、と総合組合の長は答える。
「まさか、本当に樹木を伐採してしまうなんてね……助かったよ、こちらとしても」
「厄介事の大本を消してくれたのだから」と、総合組合の長は若者達に笑いかけた。
「あの」
「何かな」
ふと思い出した様子で黒髪の若者が声を上げる。総合組合の長は視線を向けた。
「樹木の奥に、女の人がいて……」
「ああ、気にしなくていいよ。樹木に入った者にはどんな身分の者でも、必ず脱出用の道具を渡してあるからね」
不安げな黒髪の若者の言葉は、あっさりと流される。それに魔女は違和感を覚えた。本当に気にしていない、むしろ居なくなって清々した、そんな雰囲気を感じ取る。若者達は気付かなかったし、魔女も一瞬しか分からなかった違和感だった。気のせいだろうか。
「これから忙しくなる。色々と調査をしないといけないからね」
その言葉に何か不穏なものを感じたが、総合組合の長は足早に去っていったので、魔女は追及することはできなかった。
×
「……51番目を追い払ってくれて助かったよ」
そう一人きりで、魔女の次男は小さく呟く。
偶然だっただろうけれど、あの若者達のおかげでわざわざ手を下さなくて済んだ。
「厄介な女だったんだ」
魔女の次男は『基礎』の樹木の樹木育成に関わっていた。だから、『精霊の偽王国』の51番目とは面識もある。
51番目は、自身では何もしないくせをして、主張だけは激しい女だった。
だから、『基礎』の樹木の協力者だからと言って『王国』の樹木の手伝いもしろだとか、総合組合は『王国』の樹木のおかげで儲かってるのだから配当を寄越せだとか、干渉をしてきたのだ。
そして、言うことを聞かなければ『暁の君』に告げ口をしようとする。
お陰で総合組合や『王国』の樹木のある『地の国』から出ることもままならなかった。
見た目は若かったが、魔女の次男にとっては養母ほどの年齢の者である。我儘を言いたい放題しているその様に呆れていた。
『精霊の偽王国』の者には仲間意識など無い。
むしろ、居なくなったお陰で伸び伸びできるのだ。
『基礎』の樹木の調査やら、研究やらに専念できる。
「……そして、これから父さんの計画通りに進む筈だ」
そうなれば、失敗は許されない。きっとあの人のことだから、どうなっても良いように色々と細かく計画は練っているのだろうけれど。
「僕は僕ができる事を……」
やれることを、やれるうちに済ませておかねばならない。




