国の在り方
樹木が発生する前と後とで、『国』の在り方が変わったな、と魔女は感じていた。
例えば、魔女達が今歩いている森。
ここは以前は『××国の⚪︎⚪︎森』のような名称が付いていた。
だが、今の地図を見ると『⚪︎⚪︎の森』とだけしか表示されないのだ。
つまり、この場所はどの国にも属さない土地なのだ。
大まかには近隣の国の土地には属しているのだが、この森は国境の外にある。
国は自国を外壁で囲い、その中だけを自国としていた。
つまり、国自体が巨大な村のような状態になっている。
なぜこのような状態になったのか、というと。
「(……魔獣が強力になったからなんだよね)」
森の中を歩きながら、魔女は小さく息を吐く。
魔獣が強力になったから、魔獣の被害が増えた。
魔獣の被害を受けると、国が被害を受けた人や物に対して何かしらの補償をせねばならない(そういう国同士の決まりがある)。
簡単にいうと、強力になった魔獣の被害に対して、国が補償できなくなった。だから、国は手の届く魔獣の出にくい範囲を『国』とし、行う補償を最小限にしたのである。
そうして、魔獣が多く発生する荒野や森が国でなくなった。
ただそれだけの話である。
「(でも、魔獣に襲われた人ってどこに行ったんだろ)」
内心で魔女は首を傾げた。
魔獣に襲われると行方不明になる。
そんな噂話が最近出始めた。
魔獣に挑み倒した者はそのまま生還するのだが、魔獣に勝てなかった者は行方知れずとなるのだ。
これは「目の前で、魔獣に襲われた人が消えた」という報告が多々あり発見された事象である。
「(……不思議なことがいっぱい)」
人に殺された人も消えるらしい。だが、考えたって答えが分からないのでしょうがないのだった。
×
「着いた、『地の国』ー」
黒髪の若者が「やっとだ」と、項垂れる。目の前には『地の国』を囲う巨大な壁と門があった。これが国と外を分ける外壁である。
「道中の魔獣とか色々、酷かったわね」
魔術使いの若者もうんざりした様子で息を吐いた。外壁の門には数名の人が並んでいる。それは荒野を渡ってきた隊商や冒険者達だ。
「まあまあ。いい経験値になったと思えば、良いんじゃないかな」
多分、と聖職者の若者は苦笑を溢す。冒険者達の列に若者達も並んだ。魔女もおとなしくそれについていく。
『地の国』に着くまでに、幾度か魔獣に襲われた。それは武器制作に必要な素材を持つ魔獣ではなく、普通の魔獣だ。きっと魔女の魔力などに引き寄せられたのだろう。
武器制作には不要だが、出てきた素材は集めている。理由は体力や魔力を回復させる魔法薬の生成に使えるからだ。
それから少しして門前の列が進み、『地の国』の門を潜った。
×
『地の国』は豊かな国だった。
街中には植物があり、人々も活気にあふれている。街の隅はそうでないかも知れないが、治安も悪くない。
「わぁ」
周囲を見回し、魔女は小さく歓声を上げる。
召喚獣などの魔法生物や人間のペットなどの愛玩動物も、ちゃんと居るのだ。それは、街中には滅多に魔獣が現れない証拠だった。
石や木を使った建物が並ぶ街並みは、それなりに整っていて、街は荒れていない。
魔女は総合組合を通って来たので、門周辺の街並みについてよく見ていなかった。だが、門から少し入っただけで分かる国の豊かさに魔女は関心する。
「まあ、この治安の良さはギルドのおかげだけれど」
と、魔術使いの若者が呟いた。「(ギルド……確か総合組合のことだよね)」と魔女は思い出す。転生者や転移者だけでなく、若者達も総合組合のことをギルドと呼ぶらしい。
どうやら、総合組合の本部がある場所、ということもあり治安維持に力を入れているようだ。
見回すと、服装からして街の人よりも冒険者が多いように見えた。
「やっぱり、おっきな国なんだね」
と、魔女は目を輝かせる。
だが。
『誰かと一緒だったらもっと楽しかったかもしれない』とふと思い、少し悲しくなる。
若者達には気付かれなかった。




