王国伐採9
「どうだった? 『呪う猫』」
拠点に戻るなり、そう問われる。視線を向けると、黒い肌に黒髪の中性的な人物、『黒い人』が無表情ながら興味津々な眼差しを向けていた。
「最悪、です」
偽王国の騎士もとい『呪う猫』は肩を落とす。
彼女を回収しようと考えていたのは確かだが、今回出会ったのは偶然だった。偶然ついでに回収を試みたものの、今回は逃げられてしまったのだ。
「彼女に、『大嫌い』……等と」
思わず吐血してしまいそうな衝撃があった。もう全てがどうでも良くなって投げ出したくなるほどに。
「其れに、彼女に忘れられている……等」
「そっかぁ」
にやぁ、と『黒い人』の口元が笑う。
「何故、喜ぶのです」
「だって、試練じゃん?」
銀の瞳を輝かせ、「乗り越えられたら更なる『愛』が手に入るよー」と嬉しそうに告げた。
「あなた、本当に私達の仲を応援していらっしゃるので?」
じろ、と『黒い人』を睨むと
「うん。推してるよー」
そう、非常に上機嫌な声が返される。
「本気で言ってるのですから、困ったものですよね」
と、白い肌に白髪の人物『おばあちゃん』は頬に手を遣った。
「大丈夫、大丈夫。『命の息吹』には嫌われないから」
「実際に『大嫌い』と言われておるのだが……」
泣いていないが、気持ちは泣きそうだ。人生でこれほど心が折れそうになったことがあっただろうか(反語)。
「死んで良いですか」
「ダメに決まってんでしょ!?」
小刀を抜き出した『呪う猫』に『黒い人』は慌てて制止をかける。
「てか君が死んだら、それこそほんとにオシマイになるんだから」
しぶしぶと小刀を仕舞う『呪う猫』に、『黒い人』は小さく安堵の息を吐いた。
兄を呪殺する際に『呪う猫』は自身の魂である魔力と呪力のたっぷり詰まった首から毛先までの髪束を犠牲にしたのだ。だから、それを補うように『黒い人』は『熱』を与えた。だが、そのおかげか彼は以前より感情的になってしまったらしい。
「まあ大丈夫だって」
『だって、『命の息吹』に選ばれてるんだから』とは言わないでおいた。『黒い人』は苦しんで手に入れてこその愛だと思っているからである(厄介なヲタク)。今の『命の息吹』と『呪う猫』の状況は『黒い人』にとっては割とおいしい状況なのだ。
「ところで、なんであの子に『命の息吹』を預けたの? 『呪う猫』は自分で回収する気満々だったよね」
途中で現れた、『呪う猫』のことを少女性愛者と呼んだ黒髪の若者のことを思い出す。『黒い人』はその瞬間は大笑いしていた。
「……あの者は、恐らく転生者。勇者足る蛮勇と気運を持つ者です。私の下で預かる依りも、より良い結果になる、と感じましたので」
真剣な様子で『呪う猫』は答える。
「ふぅん」
「でも、あの子『癒しの神』の加護を受けていましたよ。……大丈夫でしょうか」
心配そうな『おばあちゃん』に、『呪う猫』は深く溜息を吐いた。頭が痛そうな顔だ。
「兎角。私は計画を次の段階へと進めねばなりませんので」
気を取り直し、『呪う猫』は告げる。
「頑張って『呪う猫』ー」
「わたくし達は何もできませんからね」
×
『呪う猫』もとい偽王国の騎士は、虚数世界に行く。
そこには『精霊の偽王国』の者や『魔王』達が居た。
「ちょっと。お前、帰ってくるの遅くない?」
王国の大樹の守護の役を受けた51番目が、嫋やかな見た目に反して不機嫌そうに偽王国の騎士を睨む。
「……」
基礎の大樹の守護の役を受けた20番目は、夜のような濡れ羽色の髪の隙間から見える、山吹色の目でじっと偽王国の騎士を見つめた。
「まあ、良いだろ。樹木の管理以外にも色々しているみたいだし」
勝利の大樹の守護の役を受けた5番目が、煌びやかな衣装でゆったりと優雅に頬杖を突く。
「それで。何をなさっていたのですか」
壮麗の大樹の守護の役を受けた27番目が淑やかに偽王国の騎士に視線を向けると
「どうだって良いでしょ。わたし達に隠れてこそこそしている事実は変わらないんだし」
峻厳の大樹の守護の役を受けた35番目が、奔放に答える。
「そうよぉ。いっつも何か隠して胡散臭いったらありゃしないわ」
慈悲の大樹の守護の役を受けた28番目が、微笑みを湛えたままで偽王国の騎士を睨んだ。
「王の御前だぞ。私語を慎め」
理解の大樹の守護の役を受けた44番目が、陰気な顔で二人を窘める。
「……時間通りに来ている。問題はどこにも無いだろう」
そして、知恵の大樹の守護の役を受けた1番目が、堂々とした声で返した。そこで不満そうにしながらも周囲は静かになった。
「よく来た。お前も座れ」
運命の大樹の守護の役を持つ2番目の王弟が、偽王国の騎士に告げる。
「は」
短く返事をし、偽王国の騎士は栄光の大樹の守護の役を受けた15番目の席に座った。
「では、定例会議を始める」
王弟の言葉で、樹木の主達の会議が始まる。




