王国伐採8
「助けてくれてありがと」
魔女は若者達に礼を云う。
「急に追いかけられて、びっくりしてたんだ」
追いかけてきた偽王国の騎士がやけに距離が近かったことも気になったが、それよりもあの赤黒い虹彩の目が気に入らない。あの白菫のような白けた髪色も、すごく嫌だった。
そう思いつつ、目の前の若者達が『樹木を破壊する』と告げていたことを思い出す。
「わたし、樹木のことを調べてるの」
魔女は自身の目的を大まかに話す。道草を食っていたおかげで逸れていたのだが、そこは言わないでおいた。
「調べてるってなんで?」
「えっと、植物の研究してるからその一環で」
若者達に問われ、魔女は咄嗟に答える。『総司令官からの命令で』と素直に答えるには、若者達のことをよく知らないから誤魔化した。
「植物の研究? その年で?」
「見た感じまだ一桁か二桁になったばかりくらいよね」と訝しげに魔術使いの若者が問う。そこで自身がまだ10代程度の少女のような見た目であることを魔女は思い出した。
「これでも結構おねーさんなんだよ!」
そう、主張する。だが
「あーはいはい。なるほどね」
「背伸びしたい年頃なんですね」
と、若者達はどこからどう見ても若い少女にしか見えないその様子を信じていない様だった。
「むっ」とするも、仕方ないかとこれ以上の弁明を諦める。それに、何がきっかけで元の姿に戻るかもわからないので、しばらくは少女の姿だろうとも悟った。
「樹木をもっと調べたら、もしかしたら巻き込まれた人を助けられるかもなんだけど」
「手伝ってくれないかな」と若者達に協力を仰いでみる。樹木の元に行く目的が同じなら、一緒に行っても問題はなさそうだと考えたのだ。
「なんだか、きみたちと一緒ならできる気がするんだ」
それは嘘じゃなかった。彼らを見ていると、不思議と樹木の頂上まで辿り着ける気がしたのだ。
「うん、いいよ」
黒髪の若者はあっさりと頷いた。それを「ちょっと、大丈夫なの?」と不安そうに魔術使いらしき若者や聖職者らしき若者が見ていたが、「大丈夫だよ。目的が似てるなら、一緒に行動するに越したことはないでしょ」と軽く答える。
「それに、一人にした方が危なさそう」
「それは確かに」「そうですね」
また「むっ」としたが、友人達からもそう言われた記憶があったので魔女は閉口した。
『なんだ、騒がしいと思えば』
杖に下がってた札から薄く霞のような体の猫が現れ、魔女の顔の横周辺に留まる。
「あ、薄紫色のねこちゃん。戻ってきたんだ」
『霞色だ。何やら妙な気配を感じてね。……些か遅かったかな』
魔女の声かけにやや憮然とした様子で答え、ちら、と周囲を見回した。
「助けてもらったんだよ」
と、魔女は若者達を紹介する。一瞥し
『そうか。礼を言おう。此の娘はどうも厄介事に巻き込まれ易い質でね』
呪猫当主は軽く返した。深い興味はなさそうだった。
「ところで。きみたちは、なにしてるの」
魔女は若者達に問う。樹木を壊しに行く、とは聞いていたがその準備の途中、とも聞いていたからだ。
「巨大樹木を攻略するために、まずは自分に合った強い武器を作らなきゃいけないらしくて。魔獣退治と素材集めをしているんだ」
照れ臭そうに黒髪の若者は答えた。
話によると、若者達が所持する普通の武器だと樹木に挑むには心許ないらしく、通りすがりの錬金術師に「材料を揃えたら良い物作ってやる」と言われたらしい。
「ふーん」
材料集めくらいなら手伝えそうだ、と魔女は頷く。
そして、若者達と魔女は自己紹介を済ませ、武器制作のために魔獣退治や植物採取を再開した。黒髪の若者は魔術と剣術を使い、薄青い髪の若者は魔術使い。黄色い髪の若者は聖職者だという。
また、若者達は10代後半だが同年代の者よりはそれなりに実力もあるように見えた。きっと、早いうちから自身の能力の研磨に時間を割いていたのだろう。
魔女のおかげで魔獣がよく現れるようになったり、植物の発見率が上がったりしたのだが、魔女と若者達が気付くことはなかった。
『(魔女の幸運と魔獣を引き寄せる魔力の産物……か)』
周囲を観察し、呪猫当主は小さく息を吐く。




