王国伐採7
「止まれロリコン!」
と、黒髪の若者が飛び出した。
「ロ……っ!? ま、まさか私の事で御座いますか」
魔女と偽王国の騎士は若者を見る。
中肉中背で中性的な、これと言って特徴のない若者。ただ、黒髪は珍しい。それによく見ると、肩に付く程度の長さのそれは、星空の様に煌めく不思議な黒髪だ。
「そうだよ。アンタ以外に誰がいる」
魔女をかばうように前に進み出て、黒髪の若者は偽王国の騎士を見つめた。
「小さな子を泣かせるなんて最低」
「深い事情は知りませんが、感心しないですね」
その後から魔術使いらしき薄青い髪色の若者と聖職者らしき黄色い髪色の若者も現れる。そうして、二人も魔女と偽王国の騎士とを阻んだ。
片方は呪猫で貰える認可のマントを羽織り、もう片方は祈羊で貰える首飾りを下げている。恐らく魔女と同じ国の出身だろう。
「……少女性愛者、ふむ。意味は分かりませぬが概念は解りました」
聞いたことのない単語だったが、その言葉が示す概念をそれとなく魔女も理解する。同時に、こちらのものでない言葉を使うなら転移者か転生者だろうか、と思考した。
「失敬ですね。少女成らば誰でも良いかの様な言種等。私は、其処な小娘にしか愛情も愛欲も抱かぬわ!」
「ひえっ……それ、はっきり言っちゃう?」
偽王国に騎士の剣幕に、眉を寄せて魔女は後退る。なんか凄い変なこと言わなかったか。
「……まあ、普通の情動程度成らば。多少は、他の者でも起こりますがね」
「なにこのひと」
何かを思い出しているらしく、偽王国の騎士は視線を僅かに逸らし呟く。それに魔女は忙しい人だな、と眉を寄せた。
「とにかく。小さな女子を泣かせているアンタが良い奴には見えない。何者だ」
若者達は対立するその姿を睨み付ける。
「……私は。『精霊の偽王国』の騎士29番目」
魔女に告げたものとほとんど同じ内容を偽王国の騎士は告げた。その間に、魔女は改めてその偽王国の騎士を観察する。
男は薄い布で目元より下を隠しているが、なんとなく美しい顔をしているだろうと予測できた。そして、赤黒い虹彩と真っ白な髪。前髪は長く、外套で見辛いが後ろ髪は短め。
「……」
やっぱり、その外見が気に入らなかった。違和感しかない。魔女は顔をしかめる。
「『精霊の偽王国』ですって」
「やはり、ここでも悪さをしていたんですね」
魔術使いらしき若者と聖職者らしき若者は嫌悪の表情を隠しもせず、黒髪の若者は警戒をさらに強めた。
「……ほう。『精霊の偽王国』の名を聞いても怯みませんか」
面白いものを見たかの様に、偽王国の騎士は僅かに目を見張る。
「ただ世界に迷惑かけてる魔術師の集団なんて、怖くないね」
「成程」
黒髪に若者の言葉に偽王国の騎士は納得したようだ。
『精霊の偽王国』と聞くと大抵の者は強い魔術師だと認識し怯えるが、若者達はそうでもないらしい。それに、偽王国の騎士も『精霊の偽王国』を悪く言われても気を悪くする様子は見られなかった。
「兎角。其処の小娘を此方に渡して頂きたいのですが」
偽王国の騎士は魔女を見つめ、こちらに来るよう手を差し出す。「嫌」と、魔女がぷるぷると首を横に振ると、少し残念そうな表情をした。
「断る!」
魔女が偽王国の騎士と居たくないらしい様子を見、若者達は武器を構える。どうやら、この若者達は魔女の味方をしてくれるらしい。
「然様で。して、貴方方は何者ですか。見るからに冒険者……に、成り立てのひよっこにしか見えませんが」
煽るように偽王国の騎士は若者達に問う。年若い見た目に素朴な武器。服も新しいものに見え、旅慣れしている様には見えない。
「アンタに名乗る名前はない。それに新人の冒険者で何が悪い! 今から樹木を攻略しに行くんだ」
「今はその前段階、でしょう?」
黒髪の若者に魔術使いらしき若者が補足する。
つまり、樹木に挑む予定があるが、準備不足でその準備中、というところだろう。
「……因みに、何の為に樹木へ?」
口元に手を遣り、偽王国の騎士は問うた。
「樹木を破壊して、家族を取り戻す」
黒髪の若者は、真っ直ぐに見返す。
「……其の輝く目、あの『勇者』を思い出しますね」と偽王国の騎士は小さく呟き、
「良いでしょう。面白そうです」
と、薄く微笑んだ。
「樹木を破壊したら、またお会い致しましょうね」と言い捨て、魔女をそのままに偽王国の騎士は踵を返す。
若者達は臨戦体制だったが、偽王国の騎士はあっさりと身を引いたのだ。
完全に気配が消え、若者達と魔女はほっと息を吐いた。




