王国伐採4
世界がおかしくなってからのことを、魔女は思い返す。
話によると、空から星が落ちてきて世界が揺れたらしい。その時、魔女は寝ていたのでどんな様子かだったのか詳しくは知らない。
ただ、『聞いたこともないような唸る音と、凄まじい衝突の音がした』という証言を聞いている。落下地点周囲の人が消えた話も。
そして、落ちてきた星のお陰で天地が曖昧に混ざった影響か一時期昼と夜が混ざり、季節が消えた。昼夜と季節は今は戻ってきたが、巨大樹木が生えて天と地は繋がったままだ。
巨大樹木が生えてからは人々が亜人化して、人間と亜人との差別が酷くなった。それに、『精霊の偽王国』と名乗る集団が現れて魔術師達の地位も危うくなった。
そんな中、呪猫で修行をしていた魔女の次女が『当主代行』として、「呪猫で魔術師達を預かる」と言い出したのだ。
本来は魔術師である魔女の長女のためだったらしいが、「ついででみんな守っちゃうよ」とのことだった。今は魔術師を輩出する学校と連携を取り、呪猫で許可をもらった魔術師(魔術使い)はそれなりに自由に行動できるようになったという。
呪猫当主も倒れて大変だろうに。……その当主は魔女と共に旅をしているのだが。
そして、宮廷の魔術師は半分ほど行方不明になったらしい。2番目の王弟と共に。
いなくなったのは若い魔術師が多かったらしいが、有力な魔術師も少し居なくなったと聞く。
「確か、その2ちゃんが宮廷の魔術師について何か言ってた気がするんだけど……」
学生時代の名残りで魔女は大聖女のことをまだその2ちゃんと呼んでいた。名前は覚えているのだが、そう呼んでいた癖だ。
少しして、思い出す。
「いなくなった宮廷の魔術師は『精霊の偽王国』にいるらしい……んだっけ?」
『精霊の偽王国』は2番目の王弟が率いる魔術師の集団で、星を落とした原因らしい。
そのついでに、大聖女となったその2や魔術師達を排除しようとする宗教団体が居たことも思い出した。
組織の名前は『聖十字教』。癒しの神を唯一神とした十字教の過激派な集団で、人間のみが正しく、魔人と亜人を許さない。その集団は転移者であるその2こと大聖女を『胡蝶の魔女』であると叫ぶのだ。
「……色々とややこしいことになったなぁ」
昔は相性結婚や貴族と平民の身分差、魔獣や精霊ぐらいしか問題にならなかったというのに。魔女は呟く。
人間同士の争いが増えてしまった。
「まあ、あんまりわたし関係ないかもだけど」
相性結婚、でふと胸が痛くなる。思わず胸元をきゅっと握りしめた。
「わたしは……」
子供達や周囲の話によると、『相性結婚』で結ばれたらしい。右腕に着けた、ぶかぶかの結婚腕輪を見る。
「(『不変の金属』に、綺麗な魔石)」
そっと指で撫でた。
永遠の愛を意味する不変の金属と、とても綺麗な深い緑色の良質な魔石。
石の色や腕輪に感じる魔力の気配から、きっと綺麗な緑色の目を持った人なのだろうと思う。
思い出せば、相性結婚で結ばれるとすぐ離婚するとか不仲になると言われていた。自分達はどうだったのだろう。
「腕輪を見る限り、そんなに仲が悪いことはなさそうなんだけど」
綺麗な深い緑色の装飾があり、丈夫で美しい腕輪。魔女はこの腕輪のことを気に入っていた。
それに、結婚相手と仲が悪いと腕輪でも指輪でも綺麗な装飾にならないらしいと聞く。
「……なんにも、思い出せないなぁ」
呟き、魔女は涙を溢した。
×
森の探索中、なんだか懐かしい気配を感じる。
「……なんだろ」
足を止め、周囲を見回した。それに、何か匂いがする。
『(……すごく、いい匂い)』
抗いがたい気配で、ふらりと足がその方向に向かう。
なんだか、胸の奥が熱くなって、じわりと涙が溢れそうになる。
やっと、逢える。
そう、思ってたのに。




