王国の樹木伐採
休載一年お待たせしました。
なるべく早く更新できるよう努力致します。
ちなみにこちら、休載中に書いた薬術の魔女の結婚事情に関連する(かもしれない)お話達です。
(ある運命の裏)
https://ncode.syosetu.com/n2451ic/
(ある運命の隙間)
https://ncode.syosetu.com/n2889ic/
(ある運命の虚像)
https://ncode.syosetu.com/n9843ih/
(どうやら俺は主人公じゃないらしい。)
https://ncode.syosetu.com/n1904ih/
(婚約破棄をお願いされましたが、多分無駄ですよ。)
https://ncode.syosetu.com/n7270id/
(とある子供の話)
https://ncode.syosetu.com/n3146ij/
魔女は『地の国』に到着した。
国同士の間には強力な魔獣の徘徊する『荒野』があり、そこを渡る『隊商』に護られながら他国へ移動するのが通常である。危険でお金も時間もかかる。
だが、魔女は自国の総合組合に設置された転移門を使用したので、たったの数秒だ。それに許可証は総司令官から無償(恐らく給料天引き)で貰っている。
「荷物置けるとこないかな?」
言いつつ総合組合内部を歩いた。
総合組合は各国で樹木の調査や魔獣退治、その周辺の色々を担う組織だ。なので、魔獣達に対応するための武器を取り扱う店、防具を取り扱う店、薬品や魔道具を取り扱う店などがあるらしい。
「お土産屋さんと食事の場所もある」
他にも壁の方には大量に紙が貼られた板があり、きっとそこで素材集めや魔獣退治などの仕事の依頼をしているのだ。
「ん、休憩場所みっけ」
自販機類や現金自動預け入れ払い出しの魔導機の置いてある場所に、椅子や卓を見つける。景観のためか、鉢植えの植物も置いてあった。
「よいしょ、と」
魔女は背負った荷物を椅子に置く。
「ふー。重かった」
言いつつ周囲を見回す。
たくさんの行き交う人に、亜人化した人達。
『地の国』の総合組合は巨大な駅のようだった。
「さすが、本部ってだけはあるなぁ」
呟き、自身の予定表に目を向ける。
総合組合は世界中に支店を置き、今魔女のいる『地の国』が本部。最も建物が大きく、設備も充実している。
「荷物チェックの後は、あの子に会いに行くんだっけ」
予定表をしまい、椅子から飛び降りて目的の場所まで歩き出す。
×
「ようこそ、総合組合へ。お待ちしておりました、『魔女』殿」
目的地に着くと、背の高い男性が出迎えた。銀灰色の髪を綺麗にセットし、水縹色の目は上品に微笑んでいる。彼は魔女の次男だ。
「うん。早速で悪いけど、総合組合の身分証ちょうだい。じゃなきゃ、樹木には入れないんでしょ?」
「そうですね。しかし、もう少し手順を踏ませて貰えませんか。折角、総合組合の長が出迎えているので」
周囲を見ると、濡羽色の髪をした補佐官の者と他にも数名の職員が居た。公的でないにしろ、王族である軍の総司令官から許可証を受け取ったのだから丁重に扱った、ということだろう。
「んー」
めんどくさいと少し口を尖らせるが、仕方がないので魔女はそれに従った。側から見ればただの幼女なので、威厳のかけらもない。
簡単に言えば総合組合の長から直々に総合組合の身分証を受け取り、宿の説明を受けるなどしてもてなされた。
もてなした後、「少し話がある」と、魔女は総合組合の長に執務室に呼ばれる。
「用事ってなに?」
見るからに質の良い椅子に座らされ、それでも気にせず足をぷらぷらと揺らして問うた。早く薬草取りに行きたいという気持ちの現れだろう。
「総司令閣下より賜った命の事です」
「お願いのこと?」
首を傾げる魔女に総合組合の長はそうだと頷く。
「何を命じられたのですか。支障がなければご教示頂ければと」
許可証が降りているのだから、自由気ままに薬草採取、などそうゆるい話でないのは分かっていた。だから、その詳細を聞こうとしたのだ。
「みんなを元に戻すお薬を作ることだけど」
とんでもない台詞を、なんともない様子で魔女は答える。
それを聞き、「(防音の魔術式を展開して良かった)」と、総合組合の長は内心で安堵した。
世界に影響を与えるような内容でも、魔女は気にせず話すからだ。魔女が『亜人化を戻す薬』が作れると知ったら、世界中から狙われるだろう。
「……では、この国で何をするのですか」
「樹木の周辺で、樹木の葉と枝を取りに行くの」
「そうですか」
主な材料はそれか、と納得がいった。ひっそりと総合組合でも各地の枝や葉を集めるような指示書を出しておこう、と思案する。
「樹木の調査もやって欲しいってあったけど」
「樹木の調査は総合組合で雇われた傭兵みたいな人達がある程度はやってくれるから」と魔女は樹木の調査はおまけ程度で良いのだと告げた。
「一人で大丈夫ですか」
「へーきへーき」
「護衛をつけることもできますが」
「そんなに心配?」
「採取に行く度に、魔獣に丸呑みにされていたあなたがそれを言うのですか」
僅かに、語気に呆れと怒りに似たものを感じ取る。
「そう言えばそうだったね……なんで無事だったんだろ」
あんたの伴侶がその度にどこからともなく現れて魔獣から吐かせてたんだよ……という言葉を飲み込んで「何故でしょうね」と曖昧に笑った。内心は『よくも消えやがったな』である。
「とにかく! お守りもあるし食べられないよ! 多分!」
大声で多分って言いやがった、と総合組合の長もとい魔女の次男は溜息を吐く。もう頭が痛くなってきた。
「用事終わったよね? じゃあ行ってくるね」
「あっ……仕方がないな」
言葉を待たずに魔女は執務室を飛び出し、次男は溜息を吐く。




