基礎と王国8
『精霊の偽王国』による宣言が行われてから数日。
懸念通りに偽王国の者だけでなく、ただの魔人も魔術がよく使えるだけの亜人や人も、排斥し差別する者が現れた。
恐怖と混乱により冷静に判断ができなかったのか、あえて先導する事で欲求を満たしたのか。それは然程大した差ではない。結果的に、魔術を上手く使える者が排斥されているからだ。
魔人であろうと亜人や人間であろうと、魔術に関連する職業なだけで攻撃される。そんな世間になってしまった。
そこで、懸念している事がある。
『精霊の偽王国に行けば差別されない』と考えた者達が、そちら側へ付いてしまうことだ。実際、あの発信以降で行方を晦ます魔術師が増えているらしい。
きっと、『暁の君』はそうなると目論んでいたに違いない。
「……あの子達、大丈夫かなぁ」
魔女は不安の声を零す。あの子達というのは魔術師である長女と、魔術使いであり呪猫当主代行の次女である。
ただでさえ『魔女の娘』としてそれなりに悪目立ちしているのに、と魔女は心配だった。
自宅のテーブルに突っ伏し不安に苛まれていると。
『気にする事は無いとも。彼女等は其れなりに賢い。上手いやり方を見つけるだろうよ』
そう、近くにひやりとしたものが降り立つ。
「あ、薄紫のねこちゃん」
軽く視線を上げ、魔女は呟いた。
『薄紫では無い。霞色だ』
やや憮然とした様子で返す。現れたのは魔女の家に居着いた、デフォルメされた猫の姿の呪猫当主(の霊体)であった。
「机の上に立ったらだめだよ」
魔女はハッとした様子で注意をする。
『床に立てばお前から見えぬだろうに』
困ったように眉間を寄せ、渋々と椅子に降り立った。合わせて、魔女は呪猫当主を見下ろす。
『斯様に、当主に軽口を叩ける者等そう居らぬだろうね。……まあ、私は良いのだが』
小さく息を吐き、呪猫当主は椅子に座った。
「良いなら言わなくてもいいんじゃないの」
口を尖らせた魔女に
『話が逸れる。続きを話しても良いかな?』
と牽制し、魔女は黙ったので話の続きを始める。
『上手いやり方とは詰まり。魔術師の安全性を保証する事だ』
国内で魔術師を多く輩出し、かつ『古き貴族』である呪猫が魔術師の善性を保証することで、魔術を使う者を不用意に警戒しなくて済むという事らしい。
×
『——と言うことで。呪猫が国内の魔術師や魔術使いの人達を保護することになりました』
と、連絡機の向こうで次女は告げた。画面付きなので次女の姿がよく見える。呪猫特有の服を着ているようだ。
そして連絡の内容は概ね呪猫当主が告げたものと同様だ。
『えっと、なんというか。お姉ちゃんの為なのが本音なんだけど、“折角だから魔術師を保護しなさい”っておじさんが』
次女はそう答える。
『それで。その“保証”ってものがこのマントだよ!』
「ん」
画面外に居たらしい長女を引っ張り出し、魔女に見せびらかす。
『“外に出たくない”って人は領地内から出なければ良いんだよー』
そういう魔術師には、研究場所を提供しているらしい。
きちんと魔術の研磨や情報の提供をしてくれるなら、呪猫の領地内にさえ居れば命の安全を保証してくれるそうだ。




