基礎と王国1
「それで。他国との繋がりって何やるんです」
何度目かの会議を重ねた後、魔女の同僚である人事中将は総司令官に問いかけた。いつまでも『構想がある』だけでは何も進まないからだ。良い加減、何をしたいのか具体的に聞く必要がある。
「公共の機関を作り、そこで知識や武力のやりとりをさせようと思っているんだ」
言い淀む事なく、総司令官は答えた。意外と具体的に考えているらしい。
「なるほど? 軍を派遣しないから維持費はさほど掛からず、他国に『軍事侵攻された』とも言われないで済むって事ですか」
と、やや明け透けな相槌を打ち、
「んで。それ、できるんですか」
そう総司令官と他人事のような顔をしている魔女に問うた。
「さぁ?」
お菓子をもぐもぐと頬張りながら、魔女は首を傾げる。
「まあできるできないかは置いといて。あんたはどう思う?」
話の水を向けられ、少し思考した。それから素直に思ったことを答える。
「わたしに聞かれてもわかんないよ。だけど、そーしれーかんの考えは良いと思う。君の意見も含めて」
大変なことは少ないに越したことはないもんね、と肯定した。
「それに。現状、他に手っ取り早い方法は無い。いつ、どんな魔獣が来るかも分からないのに悠長に待っている暇はないからね」
二人の意見を聞いて、総司令官は小さく溜息を吐く。変わった世界や身内だった者の問題を抱えており、心労が絶えないらしい。
「その前に。どうやって公共機関作るんですか? メリット無しに他国が協力するとは思えないですよ」
と、人事中将は構想を具体化する方法を訊いた。
「例え樹木を失うとしても、メリットはある。……ほら。君の伴侶がいるだろう?」
断言し、総司令官は人事中将に言葉を投げる。それから
「それと、君の友人も」
魔女にも。
「ほえ?」
「…………まさか。その公共機関と隊商、回遊派を繋げるつもりですか」
魔女は首を傾げるが、合点が行った人事中将はぱっと顔を上げる。
「そうだ。『その機関が国内にあれば、資材不足でも頼めば品物が手に入る』……素晴らしいメリットだと思わないかな?」
その考えで合っていると、総司令官は頷いた。
「いくら魔獣や樹木を伐採する技術があっても、武器やそれを行う人への食料や治療道具が足りなければ意味がないだろう?」
つまり、公共機関の運営に人事中将の伴侶が率いる隊商と友人Bがまとめる回遊派を携わらせるつもりらしい。
「……」
その考えが思い浮かぶあたり、さすがは当主の血筋だと人事中将は感心する。信用されているコネを使い他国へ介入するなど、魔女や大聖女と違いただの善人ではないと。
国外へ出て行った羽人と鱗人、つまり通鳥と交魚の者達は世界が変わる以前から培った通商の技術を発揮し、今や各国との繋がりとそれなりにの信頼を得ていた。
それに、魔獣のいる荒野や荒海を最も簡単に渡り世界中を回れる隊商と回遊派と、他国を繋げたい総司令官の考えは類似点が多い。
そもそも、通鳥の者と交魚の回遊派は、国を捨てていない。つまり自国からの命令があればほぼ間違いなく同意する。
「……まあ、いいですけど」
うまくいけば、流通の主導権をこちらに持たせてもらえそうだ、と人事中将は思った。諸外国での流通を知れば、より良い品を扱えるだろうし、他国に恩を売った方が何かと役に立つだろう。
「(……ま、デメリットしか無いと思ったら速攻でやめさせてもらうけどな)」
その時こそ、本当の国の崩壊だろうか、となんとなしに過ぎった。




