勝利と栄光8
「『聖十字教』ってなに?」
と、魔女は大聖女に問う。
大聖女とはかつて同級生だったが、大聖女となった時に立場を弁えて連絡を控えていた。
だが、王命で樹木伐採を行なった者同士として、以前より気軽に連絡を入れられるようになったのだ。その上、面会も容易になった。大聖女と幼女の魔女が会合する時は、大聖女の補佐らしい祈祷師も一緒に居る。
「ええと、」
周囲を軽く見回した後、大聖女は魔女の耳元に口を寄せた。
×
『聖十字教』とは、魔女の同僚である人事中将の報告通りに十字教の新しい宗派のことだ。
どうやら、大聖女も件の集団に色々と戸惑っているらしい。だが、現れたのは彼らの主張の通りに意外と昔から有ったという。
「活動が活発化してきたのが数年前ですが……この国で、一度戦争を行なわれた頃でしょうか」
少し控えめに、魔女の様子を確認しながら大聖女は答える。恐らく、その戦争を終わらせた魔女の発明について思い出し、どう言おうか迷っていたのだろう。
「わたしのことは気にしなくていいよ。折り合いは付いてる話だし」
そう、魔女は大聖女に告げた。作ってしまったもの、使われてしまった事実、多くの犠牲者についてはもう覆せないので、逃げるのはやめて受け止める事にしている。
おまけに、その発明のおかげで魔力が詰まりやすい養子を助ける事が出来たので、それで良いと言った。
「ええと。実際の所、私と『聖十字教』との関わりはほとんどありませんでした」
当時、この国にその使徒は居なかったので、ほとんど無関心だったと言う。
「でも、覚えはあります。私のことを『胡蝶の魔女』と呼んで聖女として認めていない宗派です」
大聖女は、生まれながらにして精神に作用する魔術師や奇跡が得意なのだと教えてくれた。それを恐れて、認められていないのだろうとも。
「正しくは、『転移者の聖女』を認めない宗派でしょうか」
詳しくなくてごめんなさい、と謝る大聖女を魔女は「少し分かれば十分だよ」と押し留める。
「私、転移者なんです。前、言いましたっけ?」
「覚えてないかも」
あっさりと言うそれに内心で驚きつつも、魔女は首を傾げる。それを「まあ、随分と昔の事ですし」と懐かしそうに言い、
「ともかく、転移者は親が居ないから魔の者だと言っていて。とにかく転移者の聖女を嫌っているらしいです」
そう、大聖女は『聖十字教』の現状を知っている限り答える。
「そうだったら、親が居ない人も?」
魔女が問うと
「どうなのでしょうね。なりたくて孤児になった人なんてそう居ないと思いますし、修道女や孤児院にはそういう元から親類の方が居なかった子も、いらっしゃるでしょうし」
そう、言い
「余計なお世話かもしれませんが、魔女ちゃんも気を付けて」
魔女に注意を促した。
「うん。ありがと」




