勝利と栄光5
「上手いことやってくれてありがとう」
悪魔自身の拠点に戻った時、『黒い人』が声を掛けた。
「ギリギリだったけれど、わたしが勝ったよ」
危なく『熱の神』に奪われるところだったけど、と言いながら、伸びをする。それを視界の端に入れながらも、悪魔はすぐさま机に向かい資料に目を通し始めた。
「ね。『命の息吹』が、すっごいちっちゃくなってて可愛かったね」
昔を思い出しちゃう、なんて言いながら『黒い人』は先程見たばかりの魔女を思い出していた。
「風が吹けば飛んで消えてしまいそう」
そう呟いた時、やはり伴侶である悪魔は少し動きを止める。分かりやすいものだな、となんとなく思いながら
「大丈夫。空には“おばあちゃん”が居るから、飛んでも戻してくれる」
と、多少の問題は無い事を伝えた。
ただ、虚数世界から『熱の神』が干渉してきたら話は別だ。そちらに連れて行かれてしまえば、取り戻せなくなる。
まあ、それをさせないために彼は今の行動を行なっている訳なのだが。
「それはともかく。これからだね」
再度、『黒い人』は魔女の伴侶に呼びかけた。背を向けたままでこちらを見もしない様はまあ不敬であるが、そうしないと時間が足りないらしいので放置している。
「だって一度、樹木に入る方法と樹木を消す方法が見つかった訳だし」
きっと王命で選ばれた7名は知識の独占はしない。だから、他の樹木が生えてしまった国々に樹木の中に入る方法を教えるだろう。
「方法が見つかった後の模倣は得意でしょう」
人間はそういう生き物だもんね、と『黒い人』は言う。
「だけどきっと、樹木から木の実を見つけることはできても、回収はできないだろうね」
何故なら、樹木の回収には『妖精の魂を持つ者』の力が必要だからだ。
そして、世界が変わって魂の姿が発露し始めた今では、妖精の魂を持つものはもう居ない。
魂の発露に伴い、彼らは妖精となってしまったからだ。あるいは、樹木の幹に収容されている。樹木発生の大元となった『塔の悪魔』は、樹木の種を形成する際に魂が妖精の者を優先的に守るよう願った為だ。
本来は魔女を守ることしか考えていなかっただろうが、結果として多くの人を助けている。
「樹木に止めを刺せる意味でも、『命の息吹』は世界にとっても重要人物になっちゃったね」
と『黒い人』は少し困ったような声色で悪魔に言った。
当の魔女本人は、伴侶の魔力の残滓と、出会ってから今までに伴侶に掛けられたえげつないほどの縁が魔女を『この世界』に繋ぎ止めている。
それはまるで、空に飛ぼうとする風船を大量の糸が巻き付いてそれを防いでいるかのような有様だ。
特に、結婚腕輪がその縁の要となっていた。
だが、その結婚腕輪の縁も切れかかっている。要は、糸が脆い。きっと、魔女が伴侶の事を忘れていることが原因だろう。




