勝利と栄光4
「——樹木が、消えたではないか」
虚数世界に在る城の中で、二番目の王弟が苛立った様子で吐き捨てた。
普段通りにつまらなそうな様子で玉座に座り、意味もなく周囲を見下している。
「ええ、其の様ですね。何の様な手を利用したかは定かではありませぬが、綺麗さっぱりと」
二番目の王弟の目の前で頭を垂れ跪座する助言者はそう答えた。おまけに、助言者は特に慌てた様子もない。むしろ白々しいほどに他人事のようで、ほとんど関心がないように見えた。
引きつりそうになる顔を抑え、二番目の王弟は助言者に顔を上げて立ち上がるよう勧める。
「計画に、支障は」
立ち上がった助言者を見、問うた。いまだに、目の前の男のことを心底信頼していない。ただ、魔術に関連する話は信用できる。だから、二番目の王弟は助言者の男に色々と自由を許していた。
「……無論」
神妙な表情を作った後、
「全く、問題有りませぬ」
そう、助言者はにっこりと笑みを浮かべて言い放つ。
「何故だ」
二番目の王弟はいい笑顔の助言者に続きを促した。
「未だ、樹木は残っていますでしょう?」
薄く微笑み、「他国にも複数、樹木の種を落とした事をお忘れですか」と確認するように助言者は言葉を投げる。
「……そうだったな」
言われて、二番目の王弟は思い出した。
この国に生えていた巨大な樹木は、複数落ちた樹木のうちのたった一つでしかなかったのだ。
「詰まり。一つ消えた処で此方の計画には何ら支障はない、という事で御座います」
そう答え、
「……まあ、残る樹木の半分程度も無くなれば……少々話が変わるとは思いますが」
と、ややわざとらしく言葉を零した。現在、世界に生えている樹木の本数は、10である。そして、それらはほぼ等間隔で綺麗に落ちたはずだ。
「彼の神が降臨し、貴方様の願いが叶うに必要な力は今の本数でも十分に回収できますとも」
以前よりは少々時間を要するでしょうが、と助言者は言う。今ある本数から減ってしまえば、現在より吸収出来る力の量が減る、ただそれだけの話だ。だから、少なくなればそれだけ時間が必要になる。
「兎も角、此れから喪わなければ良い話。そうでしょう?」
そう言われ、それもそうだ、と二番目の王弟は思い直す。
自国に生えていた樹木が無くなったとしても、他の樹木で補えば良い。消えた樹木の分まで成長させて必要な力を回収すれば良いだけの話だ。
「……全部でなくとも、最終的に一つでも残っていれば貴方様の勝利で御座いますとも」
そう、助言者は目を細めた。




