勝利と栄光2
「……樹木の中にいた人たち、どうなったのかな」
馬車の屋形の中で、魔女はぽつりと零した。
あの、消えてしまった巨大な樹木の中には、沢山の人が埋まっていたはずなのだ。熊公爵の土地に生えていた、巨大な樹木自体が消えてしまったので、中にいた人達も消えてしまった……のだろうか。
「せっかく行方不明になっていた人達が見つかったのに、私達、何もできませんでした」
気落ちした様子で大聖女も言う。
だが、巨大な樹木の幹に埋まっていた人達は、魔術的にも、物理的にも助け出す事が出来なかった。
「出来なかった事を悔やんでも仕方ないと思いますよ」
そう、魔獣殲滅部隊隊長は言う。彼は仕事柄、色々と諦めたり見捨てたりする必要がある。だから、結構さっぱりと割り切れている様子だった。
だが、魔女と大聖女はそうでもない。
特に大聖女は、目の前で助けられそうな人はできるだけ助けたいと思う気質だった。例え、それが悪いものだったとしても後で対処すればいいと思っている。
「もしかすると、大変なことをしてしまったかもしれないが。現状、私達でやれた事が今の結果なのだから、どうしようも出来ない。あれこれと悔やんでいれば、先に進めなくなってしまうよ」
と、総司令官も割り切っている様だ。
「先に進んだことで、より良い方法が見つかるかも知れないし、居なくなった人達を取り戻す方法も見つかるかも知れないだろう?」
そう言われて、「そうなったらいいな」と魔女は屋形の窓から外を見た。
数年間も見えていた樹木がないのは、なんとなく不思議な感覚がある。
樹木が消え去った後の穴もどうなるのか分からないし、樹木が消え去ったら魔獣が以前の様に弱くなるかも分からない。それに、人々の亜人化や変わってしまった世界の事もだ。
王命で樹木を調査するように言われていたので、樹木の中に、変わってしまった世界への解決方法があると思っていた。
だが、樹木を調査した後でも、現状は分からない事だらけだった。




