峻厳と壮麗10
「……退化を表すとしても、それが何の影響を与えるのでしょうか」
大聖女の言葉を聞いて、少し思考してから補佐官1は問う。
「たとえ、この樹木が天と地を繋げて多量の魔力に溢れていたとしても、試行しようとする意思がないならば意味はありませんよね」
つまり、大容量の魔石が取り付けられた魔導機があったとしても、使用者が居なければ意味がない、と言いたいらしい。
「確かにそうですが、玉の入った銃口突き付けられて安心なんてできないと思いますよ」
そう、祈祷師が答えた。
「どうやら、この場所に階段は無いようですよ」
それから少しして、いつのまにか調査を行なっていたらしい魔獣殲滅部隊隊長が戻りつつ報告する。
「階段がない……ということは、この樹木の調査は終わりで良いのでしょうか」
少しほっとした様子で大聖女は言った。
階段がないなら先へ進めない。だから、この場所で樹木の内部の調査も終わりとなるはずだ。
「やはり、この樹木をどうにかしなければ国民も安心できできないだろうね」
気落ちした様子で総司令官は言葉を零す。一応、王命として選ばれた7名は樹木の調査へ入った。そして、魔女のおかげで樹木の内部へと入れるようになり内部の調査も行なった。
だが、人々の亜人化や魔獣の凶暴化に対処する方法は見つからない。そして何より、この樹木もどうにかしたかった。
×
「見てー、なんだか綺麗な木の実見つけた」
それからほどなくして、嬉しそうに魔女が駆けて来る。目を離した隙にまた1人で歩いていたらしい。
「木の実? 何も持ってませんよ?」
駆け寄る魔女に合わせてしゃがむも、大聖女は不思議そうに小首を傾げた。
「あれ?」
同様に魔女も首を傾げた時、何か大きな衝撃が広がった。
何だろうと周囲を警戒する。そして、
「見てください、外の枝が!」
大聖女の声に、6名は星空やその周囲に視線を向けた。すると、景色の外にあった枝達が細かく解けて行く。
樹木も振動しており、このままだと危険だとすぐに察した。
「魔術、使えます! 移動術式で脱出しましょう!」
と、祈祷師が叫んだ。それに合わせて補佐官1は魔女を、補佐官2は大聖女を抱える。魔獣殲滅部隊隊長は咄嗟に総司令官の腕を掴み、各々が移動の魔術式を展開して樹木から脱出した。
×
場所の指定はなかったものの、全員が樹木を囲う森の周辺へ現れた。人数の確認と欠損の有無を確認して、異常が無い事に安堵した。
崩れ行く樹木は、まるで夢から覚めるかの様にぼんやりとそして呆気なく消え去った。
×
そして。
樹木が消え去った場所に戻ると、途方もなく大きな穴が空いていた。まるで生えていた樹木をそのまま消し去ったかの様に根っこの型の様な、奇妙な穴だ。
魔女が覗き込むと、その奥に灰のような銀色の虹彩を持つ巨大な目が一瞬見える。
だが、それは魔女にしか見えなかった様で他の誰も何も言わなかった。




