峻厳と壮麗9
視界に満天の星が広がった。
王命で選ばれた7名は幾度かの階段を登り、階層を通り抜ける。そして、星空を頂く不思議な空間に出た。
そして、ここでようやく周囲に桃色の葉と水晶のような枝が空間の外に見える。どうやら、空間に干渉する魔法か何かの中にいたらしい。
随分と巨大な樹木だからか、見える枝は随分と太かった。その上、樹木の葉も大きそうだ。
「澄んだ空気に冷たい風、暗い空、朝方、青空、快晴、夕方、夕闇、宵闇……そして、星空、か」
空を見上げ、総司令官は呟く。
「……もしかして、聖典の話ですか」
それを聞いた大聖女が、何かに気付いた様子で総司令官を見た。
「それがどうかしたの?」
同じ様に空を見上げ、魔女は問い掛ける。総司令官が呟いたものは、先程まで通り抜けていった階層達の空の様子のはずだ。
「……聖典では、天空の変化と世界の有り様を結び付ける話があってね」
告げた時、さぁっと澄んだ風が吹いた。
「正しくは、暗闇から始まるのだけれど」
それから光が生まれて段々と明るくなってゆくのだという。
「……そして最後に。雲で覆われた暗い空が冷たい風によって晴れ、再び空気の澄んだ星空に戻ることで気付きと悟りを表す訳だ」
と、総司令官は聖典の内容を掻い摘んで話した。
「へぇー」
と、ほぼ聞いていないかのような様子で魔女は相槌を打つ。だが、そこでふと違和感を覚えた。
「暗い空が冷たい風で晴れるはずなのに、冷たい風の後に空が暗くなったよね」
なんでかなぁと、呑気に魔女は首を傾げる。
思い出してみれば、樹木に入りたての場所の空気が澄んでいたかは不明だが、次の階層の空気は澄んでいた。その次の空が暗くなった階層で、更に次の空は朝方の様に色付いた空だったはずだ。
「もしかして、順序が逆なのか?」
先程まで、3階層のあの色付いた空は朝方だと考えていたが本当は夕方だったのかもしれないと、総司令官は少し声を低く呟く。
「……朝方でも夕方でも、どちらでも良いのでは」
そう困惑した様子で補佐官1は問うた。……ちなみに魔女は内容の理解が追い付かず、拾った樹木の枝をぼんやりと眺めている。
「いいえ。順序というものは、とても大切なものです」
静かに、それでいて少し険しい顔で大聖女は答えた。
「先程述べた聖典の内容は、人々の成長や進化を現したもの」
そして、ぼんやりと枝を眺める魔女を見ながら
「それが逆ということは、これは人々の退化あるいは停滞を模倣したものです」
そう答える。もう一つ、魔女の持つ樹木の枝は水晶ではなく、硝子製のものだと気付く。
硝子は固体でいて結晶ではない、液体の様な構造を持つ特殊な物質だ。それ故に霊妙や奇跡の象徴であるが、同時に脆さと分離を表すよろしくない物質でもあった。




