峻厳と壮麗5
先程の樹木への強めの接触と同様に、魔獣殲滅部隊隊長が魁として階段の先へ行く事になった。育ての親でもある魔女はあまり良い顔はしなかったが、他に適役が居ないため口をへの字にしながらも大人しく見守る。
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階段に足を掛けた瞬間、同じ場所に立っていた。
足元には緑の芝生や土、種類を問わず若く健康的な木や花々と、様々な植物がある。
頭上を見上げれば、同様に樹木の幹や葉、枝はなく、青空が視界を覆う。薄暗くも、星の瞬きも無い、普通の青空だ。
だから一瞬、同じ場所に戻ったのだと錯覚した。
「(……いや違うな)」
周囲には王命で選ばれた6名の姿がなく、自身の後方に階段があった。おまけにその階段は、上りの階段ではなく下りの階段だ。
非常に似た様相だが何かが異なる場所へ着いたらしい、と魔獣殲滅部隊隊長は理解する。
「ねー、どうなってるー?」
そう、階段の奥から魔女の声がした。きっと息子の様子が気になるのだ。
ともかく。
下から魔女の声が聞こえるので、やはりこの場所は階段の先であり、先程の場所の上階。
「今のところ、身の危険は感じませんよ」
と、言い返してみる。聞こえるのだろうか、と思いながら。
「なにー?」
と、少ししてから魔女の聞き返す声がしたので、上手く届いていないらしいと察する。魔女の声は綺麗に聞こえるが、こちらからはそうでないのかもしれない。
「こちら異常なし。続いてどうぞ」
思考したものの面倒になってきたので、腕に着けていた軍で支給される通信用魔道具を起動させ、短く告げる。
「わ、びっくりした」
と魔女の声がしたものの
「了解。速やかに実行する」
そう、舌足らずであるものの真面目な魔女の返答があった。
それからすぐに補佐官1や総司令官、大聖女、魔女、補佐官2、祈祷師が現れる。
階段の周辺へ魔法の紋様が現れ、そこから人が現れた。なのであの階段は、階段の姿をした移動用の魔道具なのだろう。
そして現れた彼らも、前の階によく似た場所だからか、この場所に現れた際に一瞬だが困惑する様子を見せた。
「それにしても、本当によく似ていますね」
と補佐官2は呟く。
「俺の邪眼でも、ほとんどの姿形が同じように見えます」
邪眼を持つ補佐官2でもそう判断するならば、本当によく似ているのだと分かる。
「……ただ、少し風が冷たいように感じますね」
少しして気の所為だろうか、と不安気に零した。
そう言われてみれば、と気付くぐらいに僅かな変化である。
「風が冷たい事に、何か意味でもあるのでしょうか」
補佐官2の言葉を聞いて、不思議そうに補佐官1が口元に手を遣った。そして、とにかく『調査をしろ』と王から命じられているので、ふとした違和感も記録しておこうとメモに書き記す。




