峻厳と壮麗4
突如、「あっ」と大聖女の悲鳴が上がった。
「壁! 見ていてください!」
その言葉と共に、大聖女は浄化の祈りを樹木の壁に掛ける。するとその水晶のような壁の奥が非常に透明になり、中に内包しているものを露わにした。
「……人が、埋まっています」
確かに、それは人だ。どこも露出しておらず、壁の中に五体満足で埋まっている。そしてよくみると胸部や腹部の周辺がゆっくりと膨張と収縮を繰り返していた。
つまり、呼吸をしているらしい。
表情は穏やかで、眠っているように見える。
「この顔、どこかで……」
少々険しい表情で総司令官が呟いた。それから数秒後
「ああ、そうだ。樹木発生時期の頃に、行方不明扱いとなった人だ」
「こんなところにいたなんて」そう、納得した様子で頷いた。「他の箇所はどうなっている?」
総司令官は問い、それに大聖女と祈祷師は簡易的な浄化や祈りの術を掛けてみる。
「他の壁にも、いらっしゃるみたいです!」
どうやら、『星が落ちた日』以降に行方不明になった者が樹木の壁の中に埋まっているらしい。
「……この壁は、壊せるのでしょうか?」
恐る恐るで大聖女は問い掛ける。
「確かめてみましょうか」
と魔獣殲滅部隊隊長は、その言葉に乗った。他の5名は何も言わなかったので、それぞれが樹木の壁を壊すこと、その役割を魔獣殲滅部隊隊長に任せることに同意らしい。
一番の理由は、魔力が非常に硬いからだ。魔獣殲滅部隊隊長は残りやすい性質を持つので、かなり頑丈な結界や魔術等を得意としている。
ついでに言うと、この7名の中では怪力の側でもあった。
高い火力で破壊するかと一瞬思考したものの、中に生きている人が居るのでそれは止める。ひとまず、削れるかどうかを確認しようとした。
「っ!」
手先を魔力で頑丈に補強して削ろうと試みるも、
「……魔力が、吸われる感覚があります」
と、即座に手を引いた。代わりにと、鞄の中から不変の金属で作られたの鑿と金槌を取り出す。
充てがって、物理的に削ろうと試みた。
だが、ぶつけるも、逆に手を痛めかける。
「余計なもの、持ってきてる?」
不思議そうな表情で、魔女は問い掛けた。
「いえ。これも武器として使うので。判定的に問題が無いようですね」
言いつつ、道具を鞄へしまう。実際、道具作りにも使うが魔獣殲滅部隊隊長の主な用途は投擲である。
ともかく、壁が丈夫で壊せず今は助けられないと分かる。なので、他の方法を探ってみることにする。
水晶のような壁をよくみると、煉瓦のように組まれているらしい。そして、それ一つ一つに魔力や術式が込められていようだ。
建築物かのような樹木の壁に沿って、周囲を調査したところ、珍しい植物や鉱石が複数見つかった。魔術や錬金術等で役に立つ貴重な材料ばかりだ。
しかし、不思議と魔女は嬉しそうな反応を示さなかった。それを珍しく思いつつも、調査の一端なので回収する。
それから、壁に沿って移動するうちに階段らしきものを見つけた。
樹木には先があるらしい。
上に登るか相談するも、異論はないので更にその先へと登ることになった。




