峻厳と壮麗1
不意に魔女が消える出来事があったものの無事合流し、樹木に辿りついた。
殲滅部隊隊長を除く総司令官、大聖女、魔女、補佐官2名、祈祷師の6名は、至近距離で樹木を見た事がなかった。見たことのある姿は報告や報道で見かけるなど、記録媒体を通した姿だけだ。
なので、直視する樹木の姿にほとんど者は嘆息する。
「これは……何とも言えない美しさですね」
と、黙り込んだ数名の代わりに祈祷師は率直に感想を述べた。
「そして、すごく大きいですね」
言いながら、祈祷師は再度樹木を見上げる。
天と地を繋げ世界を変えた樹木は『巨大な樹木』なのだから、当然に普通の木よりも大きい。その上、天高く伸び上がって木の天辺が見えない。
既に遠方から見た時点で天に届かんばかりの姿を見せつけられていたが、より近くで見るとその迫力は凄まじい。
「…………不思議と、『神が造った』と形容しても違和感を覚えない姿だ」
そしてそう、祈祷師は嘆息した。黒い布で目隠しをしたままであるが、樹木の姿が見えるらしい。
「……何度も見ても、不気味だと私は思いますが」
と、魔獣殲滅部隊隊長は低く呟く。
魔獣を殲滅するから為に樹木の周辺に数度は訪れたので、別に特別驚く様子はない。代わりに、やや眉間にしわを寄せて険しい表情を作った。
まるで塔のように、数十名手を繋ぐ程度では囲めない太さで登る気も失せる高さの樹木は、圧倒的に自然物ではない。
自然物を模った不自然な樹木は、畏怖を抱きこそすれ、褒めようなどという気が起こらないという。
王命で派遣された者達が見る限りは、ただただ巨大な木の幹だ。
「……これを、兄上はどう調査しろと仰っていたのだろうか」
やや途方に暮れた様子で、総司令官は零した。
葉のある場所まで向かうには飛行の魔術式や魔道具、魔導機があれば対処できそうだが、調査の結果によると、木の幹周辺では樹木自体の発する魔力が強過ぎてまともに発動しないらしい。
「直接、このままで登るのでしょうか?」
と、補佐官1は首を傾げる。
「わ、私は無理ですよ?!」
それに対し大聖女は慌てて言い返した。
「道具が無いのにどうするんですか」
補佐官2もそれはあまり肯定できないと、呆れた様子で返す。王は『自身の得物以外は不要』だと指定したらしい。だから、彼らは自身の得意とする武器と携帯食料や濾過装置以外は何も持ち寄れなかった。
「ともかく……近付けるだけ近付いて、その周囲の調査を行えば、何か分かるかもしれませんよ」
そう祈祷師が提案し、他にもやりようもないので樹木の根本周辺を手分けして調べることにする。
×
周囲を見るも、『やっぱただの巨大な木だよな』という感想しか抱けない。幹は何故か水晶のような透明で、虹色のような光を内包しているが、凹みも無い。
一体どうしたものかと魔獣殲滅部隊は思考するも、
「わっ!」
と、突如、魔女の叫び声が聞こえた。
それは他の全員にも聞こえていたようで、全員が樹木へ注目した気配がした。
また何かあったのかと、呆れと共に焦りが湧く。そして声の発生源へ向かうとやはり、また魔女が姿を消していた。
だが今回は、彼女の居場所を感知できる。樹木の中らしい。
どうやって入ったのかと樹木に視線を向けると、すぐに方法がわかった。
樹木の幹に、出入り口らしきモノができていたのだ。傷一つもなかった根本の一部が、樹洞のような穴を作っていた。ただ、そこは普通の樹洞のように暗闇や木の中身が露出はせず、明るく光輝いている。




