理解と慈悲7
首根っこを掴み獣は魔女を持ち上げる。そして獣は自身の首の後ろに魔女を乗せた。反射的に魔女は頭の毛並みを掴む。胴体と違って、頭や首周辺の毛並みは頭髪のように少し硬い。
「わ、なに?」
両手両足で、ひしっと獣の頭に捕まりながら、魔女は獣に問うた。だが獣は答えずそのまま両手を地面に突いて、座っていた姿勢から腰を上げる。
それから獣は四足歩行で歩き出した。
「どこか連れていってくれるの?」
その頭を撫でながら問うが、獣はなにも答えず森の奥へ進む。
やがて、獣は樹木に近付いているのだと魔女は気付いた。
「送ってくれるの、ねこちゃん」
そう獣の頭を撫でながら問うと、低く喉を鳴らす。肯定か否定か分からないが、同意してくれたのだと魔女は思った。
「えへへ、ありがと」
ぎゅっと抱きしめて、魔女は獣の毛並みに顔を埋める。獣の首元はやや鬣らしきものがあり、さらにもふもふでいい匂いがした。
×
天地を繋げる方法を模索し、樹木を生やしてから数年過ぎた。
その合間、悪魔は世界について調べ、王達の機嫌を取ったり下準備をしたりで忙しかった。
寝る暇がないくらいに、という訳ではなかったのだが、味方があまりにも心許ない。だから、目を離した隙に計画の邪魔をされないように見張っていた。
そして『王命で数名が調査に向かった』と聞き『ひとまずの休憩ができる』と少し休みを取った。彼等達の計画を邪魔するかもしれない者が現れたなら、多少はましになるはずだと考えたからだ。
『(……其の結果が、是か)』
と、悪魔はひっそりと内心で溜息を吐く。
「ねこちゃーん!」
無遠慮に首や頭を撫でる手は、信じられないほどに小さかった。
一瞬、彼女に裏切られたのかと思った。だが、腕輪は変わった様子はないし、あそこまで似るなど通常ではあり得ない。
『(まあ、小娘成らば有り得ると思いましたが)』
と、思考しつつ上に乗る小娘に意識を向ける。
「ねこちゃん!」
恐らく、彼女はこれが人間だとは思っていない。ましてや、伴侶の男であるとも。
×
それからしばらく移動し、獣は足を止める。
「……ここでお別れ?」
そう、魔女はそっと獣に窺うように呼びかけた。
『……』
「わっ!」
唐突に、べしゃっ、と投げ出される。獣に振り落とされたのだ。
「びっくりした」
痛みよりも先に、魔女は感情の方を告げた。かなり高い位置から落とされたというのに、嫌がる様子が微塵も見られない。
「……一緒にいく?」
提案してみるも、ぷい、と顔を逸らされた。それに魔女は肩を落とす。だが、来ないのならしょうがない。
だから。
「ばいばい! ねこちゃん!」
と、満面の笑みでその獣に手を振った。




