理解と慈悲3
効率よく樹木を育てる手段を、悪魔は考えていた。
「(……抑、夢を育てるとは何を行うのだ)」
夢というものは、自力の努力や神頼み、偶然によって達成するものだろう。そう、悪魔は思っている。
わざわざ、樹木へ養分となるであろう『願望』を届ける方法は何だ。
方法がいくつか考えてみるも、何だか違う気がして頭を抱えていた。その時
『これを使うと良いと思う』
と、『黒い人』の声がした。
それと同時に、コトン、と何かが机の上に落ちる。
「……此れは」
色鮮やかな粉の入った、小瓶達だ。
中身は植物の葉を細かく砕いたものに見えた。だが、その色が真っ白だったり灰色だったり、真っ黒だったり……と、まともな植物にはないであろう色と煌めきを持っていた。
『樹木の葉達です』
と、別の声がした。それは『おばあちゃん』の声だった。少し不機嫌そうな雰囲気がする。
『やってしまった事は咎めません。それに、あなたはわたくしとの約束を守ってくれた。なので感謝致します』
どうやら、奇跡を剥がす手段が少し気に食わなかったようだ。
ついでに言うと、実行者である悪魔には怒っていないらしい。
『すっごく怒られた』
と、『黒い人』は気落ちした声色で言っていたので『黒い人』に怒っていたのだろう。
『もう一つ、これをどうぞ』
それから何か固いものがひとまとめに机に落ちた。
『夢を育てる手助けになるかもしれません』
渡されたものは、魔宝石だった。魔力の籠った貴石で、お守りや装飾に使われる石だ。
その魔宝石も樹木の葉と似た色が多く含まれていた。少し違う石もある。
『関連性については、全てこの本に記してあります』
と、少しして分厚い本が落ちてきた。黒い表紙に星空のような白い煌めきが散りばめてある。
「……」
それを手に取り、ざっと中身に目を通す。
中身は魔術に関連するもののように見えた。だが、悪魔の知っている内容とやや異なるものもいくつか見られる。
『あなたが仕えている者の居た、異なる世界の魔術の情報を授けます。それと、色々も』
色々って何だと内心で思いながらも
「……有り難く、賜ります」
と、至極丁寧に受け取った。
『そんなに畏まらなくても』
そう、『黒い人』の声もしたが、御身が壮大なものである事を忘れているのだろうか。
×
受け取った書籍の内容を参考に、『黒い人』の助言を受けながらそれらに細工を施した。
簡単に言えば『樹木に願いを掛けた者』の夢を吸収し、また樹木のエネルギーを僅かながらにも使える、魔道具を作り上げた。
これらを持って『樹木を育てる者』に渡し、一応の契約でも施せばそれっぽく見せることができるだろう。
それを、『暁の君』に「樹木と繋がりまた樹木へと『願望』を届ける魔道具で御座います」と手渡した。先程願いを叶える対象を探しに出かけた者達にも既に渡してある。
あとは『願望』を叶えたがる相手を見つけるだけだ。
別に、願望がなくとも持っていれば樹木の主のように見せることができるかもしれないが。




