理解と慈悲2
『精霊の偽王国』は儀式を行い、樹木を発生させた。
その事は『熱の神』も知っていたと『暁の君』はいう。曰く、『その力を使ってわたしは外に出るの』との事らしい。
そうか、と悪魔は思った。『黒い人』が奇跡の剥がし方を知っているならば、恐らく元が同一であるはずの『熱の神』が知っていても何ら不思議はないのだと。きっと、『黒い人』が知っている事の大半は『熱の神』も知っている。
だが、それを逆に考えると『熱の神』が知っている事を『黒い人』は知っているのではないか。これはある意味で『熱の神』の目的や動向を僅かでも知る術を得たのかもしれない。
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「あの儀式を行えばこうなると、知っていたな?」
そう、『暁の君』は助言者を睨んだ。
「ええ、はい。其れは勿論」
下手に誤魔化さず、あっさりと肯定した。そちらの方が『暁の君』は信頼するだろうと判断したからだ。
実際、悪魔は儀式を行う時点で、すでに樹木が生えるであろうことは予想済みだった。
「我らが神に勧められたモノだと聞いていたが」
「すっかりと、彼の神と繋がりのある貴方様成らば御存知かと考えておりました」
神妙に、そして少しの本心を口にする。
「……事前に教えて欲しいものだと思っていたが、『生贄の魂によって変わるから言えなかった』と返された」
言外に『お前の用意した生贄のせい』だと言っているのだろうか、と悪魔の凪いだ内心に過る。
「『塔の悪魔』は一度『熱の神』と縁を繋いだことがある者らしく、他の者よりも一等に使いやすかったのだったか」
と、思いの外『暁の君』は理解の高い言葉を口にした。
「『樹木はただ生やすだけでは時間がかかる。もっと、樹木を育てろ』との事だ」
『そうすれば、樹木はより早く世界を壊してくれる』のだと教えてくれたそうだ。
「……具体的な育て方は答えてくれなかったがな」
と、『暁の君』は悪魔を睨んだ。
要は『何か知っているなら教えろ』と言うことだろう。
だから、同一の別の神から聞いた、樹木を育てるために『夢』や『願望』が必要である旨を『暁の君』に進言した。
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「そうだ。ならば人を集めよう」
助言者の言葉を聞いた『暁の君』は、少し考えた後にそう告げた。
それから、十数名の『暁の君』は重宝している者達を呼び集めた。そして、樹木を育てる方法を伝える。
「それらは偽王国の者でなくとも良い」
その言葉は、意外に思える。助言者は全てを『暁の君』がかき集めた魔人達で済ますのだろうと考えていたからだ。
「強い願望を抱く者に、樹木を与えるのだ」
きっと、確実に樹木を育てる方法を使いたいのだろう。
「樹木を育てられる、『強い願望』を持つ者を」
だが、それを探すのは少々手間が掛かる。だからこそ、『暁の君』は有能だと判断した者達を集めたと声を掛ける。
「『自身の方が強い願望を持っている』と自信があるならばお前達で育てても良い」
誰かに任せるか、自身で育てるかは選ばせてくれるらしい。
「我らはただ奇跡の力を剥がし『熱の神』を解放すれば良いのだから」
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そして、集めた者達がそれぞれに出て行った後、『暁の君』は呟いた。
「……そもそも、この仲間のうちに強い願望を持った者などそこまで居らん」
少し憂鬱そうな言葉だ。
「貴方様は自らで育てないので」
と、唯一残っていた助言者が目を細めて問うた。
「無論、俺は育てる。お前だってそうだろう?」
そう視線を向けられ、助言者はいつも通りに微笑んだ。




