運命と知恵9
「……ふん、練度が低いな」
呼び出した警邏隊に連れて行かれる彼らを見ながら、殲滅部隊隊長は呟いた。
「尋問する間もなく、あっさりと答えましたね」
「手間が省けてよかったじゃないですか」
同意するように補佐官2は頷き、補佐官1が苦笑を零す。
×
捕らえた魔人が答えた、所属の名は『精霊の偽王国』。
「『精霊の偽王国』……ああ、最近行動が活発化している魔人の集団の事ですね」
合点がいったのか、祈祷師は小さく頷く。
魔獣との戦闘後、魔女達は体力回復を兼ねて小休憩をとっていた。森の中に座るのに丁度良い切り株や倒木に、やや開けた場所があったのだ。魔女曰く『おばーちゃんの贈り物』だから遠慮なく使って良いのだとか。
ついでに、王に選ばれた7名だけでなく、補助役の兵士達も交代で休みに入っている。
『精霊の偽王国』。
それは『暁の君』が名付けたらしい。異世界のとある集団の名前だとか。
「……確か、以前は『精霊王の鍵』とかいう名前でしたが。……確か、世界が変わる少し前に数名ほど抜け、その折に変えたのでしたか」
そして、以前の名と関連の話題を呟く。
「(…………?)」
どこか、聞いたことがあるような名前に大聖女は首を傾げた。だが、そういう方面には縁があまり無かったので分からない。魔女は何にも分かって居ない状態で、代わりの周囲の者が怪我をしていないかを目視で確認していた。今のところは問題はなさそうで魔女は安堵する。
「……やはり、彼らの言う『暁の君』は私の……双子の兄なのだろうか」
切り株に腰掛けたまま、ぽつりと総司令官は零す。まだ疑っているだけらしいが、ほとんど確信めいた口調だった。決定的な証拠は見つかっていないものの、それ以外に考えようも心当たりもない。
見れば、俯きがちの総司令官は、落胆と絶望感が混ざったような表情をしていた。
「以前、言っていたんだ『自分が王になる』と。それに『自分が王になるためには何だってする』とも」
目元を押さえ、くしゃりと宵色の自身の髪を乱す。
「『馬鹿らしい』『できるはずがない』と、思っていた」
悔いのある声色だった。
「だがもし、『暁の君』が私の兄で、言葉通りに本当の王になる事を目指しているならば」
呟き、総司令官は顔を上げ
「それは許し難い忌むべき行為であり、絶対的に叶わない夢だ」
そう、言い切った。
「……彼は、私の兄は、変わってしまったんだね」
王命に背くのなら、身内でも討ち取らねばならない。王の代行として、しなければならなくなった。
「すまない。暗い顔をした」
短く断り立ち上がったその顔は、いつもと同じだ。動揺も感情の動きもない、慈愛の表情を浮かべた顔。
「休息はもう十分だろう。そろそろ出発しようか」
周囲に声をかけて小休憩は終わりを告げる。
「また、先ほどのように妨害をしてくるかもしれないから、より気を引き締めて」
総司令官の言葉と共に再び彼らは巨大な樹木へと向かった。




